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【完結】スマホを持たない二人は電話ボックスで出逢った -グラハム・ベルの功罪-  作者: ネームレス


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第36話 6月13日 土曜日④

 今までこんなに待ち時間があるとスマホでネットをしたりゲームをしたり暇つぶしをしていた。

 あいにく今の僕にはそれはないから待合室の壁に貼ってある化石関連のポスターやバスの運賃表を見て回る。


 町内をバスで一区間移動すると「110円」か、なるほどね。

 それにうちの高校の吹奏楽部の定期演奏会のチラシもあった。

 定期演奏会って今日なんだ? 水木先生も休日出勤か、大変だな。

 

 お、指名手配犯の顔写真もある。

 こういう写真ってわざと悪そうな画像にしてるんだろうか? 詐欺師グループのトップはそう簡単に顔をさらすことはない。

 もしかすると警察だって詐欺グループ上層部の顔は知らないのかもしれない。


 待合室の時計を見てそろそろかな?と、頃合いを見計らい待合室の外に出た。

 バス停の前ですでに並んでいる人の列に加わる。

 

 しばらくするとラッピングバスがやってきた。

 U町から僕の住むS町、それにM町からK市までの直線ルートを通るバスは各市町村の企業広告を車体に載せている。

 僕は数字が印刷されている整理券をとってうしろから二列目の窓側の席に座った。


 ボディバッグからミルクティーをとって座席の前の網に入れる。

 病院に着くまで約二十カ所のバス停に止まるから到着までは約一時間。

 もちろん町中だとバス停からバス停の間隔は短い。

 反対に町の外ならバス停からバス停までの間隔は長くなる。


 ひとつありがたいことに今、僕が乗っているこのバスは病院の前で停まってくれる。

 それだけみんなK市の総合病院に行くのにこのバスを利用しているということだ。

 S町にも町立の病院はあるけれど、診療科目は内科のみ。


 眼科や耳鼻科、皮膚科という専門的な診療科目は、月に数回K市から派遣されてくる医師が担当していてた。

 消化器外科、外科、脳外科、心臓外科なんかの診療科目は初めから町立病院で紹介状をもらってK市の病院にかかるしかない。

 なんにせよ僕の住むS町どころか、この振興局ではいろんな面でK市が中心だった。


 フロントガラスの左側の電光掲示板に僕の整理券と同じ番号があって、バスの走行距離とともに運賃が変化していく。

 しばらく乗り物にも乗ってなかったなーと思いながら、移り変わっていく景色をながめた。


 今この時点でバスはもう五カ所のバス停を通過し、すでにS町の外を走っていた。

 駐車場に停まっているたくさんのキャンピングカーが視界を過る。

 もう、スーパー銭湯のところまできたか。


 バスに揺られてすこし冷静になったところであらためて考えてみる。

 仮のあの現金の入った白い封筒が詐欺だとして、僕がお金を使ってしまった場合は誰かが取り立てにくるはずだ。


 使わなくても高額な利子だけ取りにくるかもしれない。

 ただ白い封筒に入っていたお金は二日で七千四十円。

 果たしてそんな危険を冒してまで、この「化石の町」に七千四十円プラスαを取り立てにくるだろうか? 家にくるのはたいてい「受け子」と呼ばれる詐欺グループの下っ端だ。

 トカゲでいうなら”尻尾”。

 

 その多くはネットの高額報酬に釣られた一般人だ。

 七千四十円なら僕がアルバイトをしても三日か四日で稼げてしまう。

 そんな危険を冒すかな? これが何十万円とかならわかるけど……? やっぱり利子がものすごく高いとか? 僕は途中途中でミルクティーをちびちび飲みながら人の乗り降りを見つつ、考えごとを繰り返す。


 K市のカントリーサインがわずかに見えてきたところで、サイレンの音が聞こえてきた。

 バスは車道の左に寄せて停車した。

 他の車もみんな車を左に寄せて道を開けている。

 ――ひゅん、という音を残して救急車が通りすぎていった。


 あの救急車が向かう場所なんてひとつ。

 きっとK市の総合病院に向かっているんだろう。


 そこからまた時間を忘れあれこれ考えていると、次の停留所でもう総合病院前に着くとアナウンスされた。

 フロントガラスの左側にある電光掲示板もK市の総合病院を示していた。

 僕は運転席の左側にある運賃箱に片道分のバスの往復券と整理券を入れてバスから降りた。


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