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【完結】スマホを持たない二人は電話ボックスで出逢った -グラハム・ベルの功罪-  作者: ネームレス


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第35話 6月13日 土曜日③

 身支度を終えて家を出た。

 もう一度確認のためにポストを開いてみたけれどやっぱり二通の白い封筒がある。

 あと一日だけ様子を見てみよう。

 間違いでポストに中に封筒を入れたのならポストの中に伝言メモを残していくこともあるかもしれないし。


 あるいは……。

 警察が「押し貸し」という、お金を勝手に振り込んで元本と利子の返済を迫るような詐欺があるとも言っていた。

 今度はそういたぐいの詐欺なのかもしれない。


 一回でも詐欺に騙された人の名簿っていうのはコピーされてさらに売買されることもある。

 搾取()れるところからは何回でも搾取()ろうという魂胆だ。

 母さんに届いたはがきには「個別指定番号」という番号が振られていた、そういう数字で詐欺グループはターゲットの管理をしている。


 詐欺グループは電話口でその「個別指定番号」を訊きだし、どこの誰が電話してきたのかを知る。

 正直今、母さんが家に不在で病院で守られていると思うだけでホッとする。

 

 またこのわけのわからない「押し貸し」のようなものに巻き込まれなくてすむ。

 僕はボディバッグを体の前に持ってきて外側のポケットに家の鍵を入れた。

 そのままバッグを回転させて斜め掛けにする。


 家を出てから数分で廃駅の前の電話ボックスに着いた。

 菊池さんに今から病院に向かう旨を伝える。

 

 テレホンカードの残りは「6」だ。

 電話ボックスを出て一般住宅の集まる区画を抜けた。

 ちょうどそのとき車道を大きなトラックが走っていった。


 僕が進んでいる道路と反対の道をずーっと行けばやがて十字路の交差点に辿り着きその右手はガソリンスタンド。

 逆にそこで左に曲って百メートルほど進みまたそこで左折し八百メートルほど進めば僕の通う高校に着く。

 

 僕が今向かっているのはバス停が併設した道の駅だ。

 ちょうどあの娘が電話ボックスの帰りに通っていたルートと同じ。

 道の駅に併設している大型スーパーが見えてきた。

 駐車場にはたくさんの車が停まっている。

 道の駅にも裏口と表口があって僕が今きた道にある裏口から入ると遠回りしなくていい。


 母さんが入院しているK市の総合病院はここから約三十キロ先にある。

 僕がそこにいく手段は主にふたつでバスかタクシー。

 当然タクシーなんて使えない。

 そうなると選択肢はバス一択ということになる。

 

 道の駅の裏口から入るとトイレはすぐだ。

 左側には緑の公衆電話があって通路の斜め向かいがバスの待合所。

 公衆電話の前はやっぱり観光客やトイレにいく人でいっぱいだった。

 どう考えてもこんな大勢の人が行き来する場所じゃ電話なんてできないな。


 電話機の横にタクシー会社のチラシが貼ってある。

 初乗り「580円」だそうだ。

 このチラシを見ながらここの公衆電話でタクシーを呼べるなんて至れり尽くせりだ。

 でも、やっぱり僕にはタクシー移動は無理だ、と実感しながら道の駅のフロントカウンターに向かう。

 ここにも今じゃS町の特産品になっている化石を模したクッキーやキーホルダーなんかの化石関連のグッズがたくさん置いてある。

 

 フロントカウンターでK市に行くためのバスの往復券を買う。

 ここで前払いのバス券を買っておけば降車時に現金を出さなくていいから楽だ。

 乗車距離によって変化していく小銭を用意するのは一苦労だし、ましてやあの運転手の横にある両替機を使う勇気もない。


 あれ? あの白い封筒にも小銭が入っていた……ふうつなら……この場合ふつうというのも変だけれど。


 あんな中途半端に小銭を混ぜる意味があるんだろうか? また僕の家を「押し貸し」で騙すにしたって紙幣(さつ)だけ入れるほうが取り立ては楽だろう。

 僕はフロントカウンターからバスの待合室に戻りいったん表口から道の駅の外に出た。


 「赤」がトレードマークの有名飲料メーカーの自動販売機でちょっとだけ高級なミルクティーを買う。

 バスの時間があるからさすがにコンビニまではいけない。


 道の駅と併設した大型スーパーは現金かスーパー独自のオリジナル電子マネーしか使えないから僕には不向きだ。


 この自動販売機はあのコンビニと同じ電子マネーが使える。

 財布をかざすだけでピッと鳴ってペットボトルが、がしゃんだ。

 遠出するときのすこしの気分転換と贅沢。

 ペットボトルをボディバッグに入れてバスがくるまで待合室で待つ。

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