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【完結】スマホを持たない二人は電話ボックスで出逢った -グラハム・ベルの功罪-  作者: ネームレス


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第33話 6月13日 土曜日①

 今日は病院に行くからいつもより早く起きた。

 ふつうならすぐに登校準備をはじめるけれど、今日はパジャマ代わりのジャージで玄関に向かう。


 こんな姿で外に出てしまえるのは学校が休みの土曜日()だからだ。

 いつもと同じようにポストを開くと白い封筒は当然のようにある、ど?! 

 ど、どころじゃない。

 白い封筒がふたつに増えていた。

 

 どいうことだろう? 白い封筒が二通になっている。

 やっぱり誰かが意図的にうちのポストに封筒を入れていっているってことか? ふたつ目の白い封筒を持ってみても一通目と同じで底に硬貨があるのがわかった。

 

 昨日と同じようにただ封筒の口を折っただけの封筒の中を見てみる。

 見た瞬間の(かみ)の色でそれがいくらの紙幣かわかった。

 問題は枚数だ。

 千円札が三枚に百円硬貨が五枚、それに十円硬貨が二枚。

 三千五百二十円。

 

 昨日とまったく同じ額が入っていた。

 家の中に持っていくのも嫌だから、とりあえずまたポストに封筒を戻す。

 僕は引き返しながらもずっと気持ち悪さを感じたままだった。

 

 いったいなんなんだろう? いったん頭の中の切り替える。

 それでも心ここにあらあらずのまま、ひとりでトーストの準備をする。

 

 土曜日のこの時間はワイドショーが多いからそのままトーストを食べながらワイドショーを見た。

 バターの味があまりしなくてミルクティーで口の中の味を変えた。

 今ではとくにめずらしくもなくなったネット犯罪の特集をやっている。

 学校の【コンピュータ室】で見た不正アクセスの事件だ。


 ――名簿が流出して、それが売買されてしまうことがあるんですか?

 

 ――はい。当然その危険性は高まります。


 大手の通販会社の名簿でさえ売り買いされるんじゃどうしようもない。

 それでいながらいまだにうちにカタログを送ってくるなんてどういう神経をしてるんだろう? もっともそれを実際に送ってくる人のことではなく、それをする会社という組織が、だ。


 もう、うちじゃカタログショッピングなんて娯楽は無理。

 まあ、たしかにその会社から漏洩した名簿が原因だったのかの証明はできない。


 デジタルに疎い母さんは僕がネットショッピングする感覚でよくカタログショッピングをしていた。

 不正アクセスや名簿の流出なんてそんなにめずらしくもないことだ。

 あるときその通販会社の顧客名簿が流出したというニュースが流れた。

 そう、こんな(・・・)事件なんて頻繁に見かけるニュースだ。

 

 しばらくしてその大手の通販会社からお詫びという名目の封筒と一緒にカタログショッピングで使える「3000円商品券」が同封された郵便物が届いた。

 母さんは大量生産された詫び状を読みながら大変そうと言いながら事件(こと)の重大さをあまり理解していなかった。

 

 むしろ、ふっと湧いて出たお得な商品券に喜んでいたくらいだ。 

 それもそうだろう。

 だって実害がないんだから。

 逆にその商品券に小さな幸福(しあわせ)さえ感じたかもしれない。

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