蛇。
動きはしないが死んではいないようだったので、男はひょいと蛇の首を掴むと、部屋に持って帰った。
洗面器の中にタオルを敷き、蛇を入れる。
ホットドリンクの入っていたペットボトルにお湯を入れ、蛇の横に置く。
目が覚めたら飲めるように、刺身醤油の皿に水を入れて置く。
猫と格闘してできたのであろう体中の傷は痛々しいものではあったが、動物病院に連れて行くのもなんか違うなあと男は思ったので、あとは本蛇の運に任せることにして、タオルをそっと洗面器の上に掛けた。
次の朝、タオルをめくってみると、頭を少し動かしたので、小さく切った鶏肉を皿の上に置いておいた。
夜、会社から帰って覗いてみると、鶏肉が無くなっていたので、外に放すことにした。
タオルをかけたまま洗面器ごと外に持って出ると、揺れる室内が不安になったのか、タオルの隙間から蛇が首を伸ばして顔を出した。
そこだけ見るとチンアナゴみたいでかわいいななどと男は思いつつ、アパートの裏の水路に到着する。
洗面器を下に置き、タオルを外すと、蛇は身体を揺らして逡巡するようなしぐさを見せたのち、するすると外に這い出て行った。
殺したら呪ったり、蛇女とかいう妖怪がいたりする蛇だから振り返って礼ぐらい言うかなと思ったら、そのまま行ってしまった。
まあ、そんなもんだよねと男は思いつつ立ち上がった。
猫と格闘した傷跡はまだまだ生々しかったが、自然に生きる動物は、自分でどうにかするだろうと思った。
1週間後。
会社から帰ると、アパートの前に蛇がいた。
喉が妙に膨らんでいる。
蛇は男を見ると這い寄って来た。
そしてげろりと何かを吐き出した。
くすんだ青緑色の丸いもの。
そしてするすると帰って行った。
いや、いらんし。
と、男はつぶやいた。