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帰宅途中のことだ。
家の近くの細道にそれはいた。
街灯からやや離れた暗がりに女が一人、ポツンと立っていた
。近所の人しか通らない道だが、その女は近所の人ではない。
暗くてはっきりと見えたわけではないが、俺の知らない人であることは間違いないようだ。
ちょっと驚いたが、ただの若い女だ。
へたに関わり合いになることを避け、女の横を素通りした。そして少し歩いた時のことだ。
――!
首の後ろのところを、なにかがなぞった。
生温かくて湿ったなにかが。
思わず振り返ったが、少し離れたところに先ほどの女がいるだけだ。
手が届く距離ではないし、そもそも女は俺を見ていなかった。
首を触ってみると、なんだか濡れている。
――なんだあ、なにが首に触ったんだ。
そして気づいた。
俺は激しい疲労感を覚えていた。
身体がだるく、歩きはじめるとふらついた。
家までのそう遠くない距離を、随分な時間をかけて戻った。
次の日から一週間仕事を休み、完全に回復するまでひと月くらいかかった。
あの女に会ってから二か月ほど経過した時のこと。
その日もバス停から歩いて帰宅していると、角を曲がったところであの女を見た。
思わず後ずさった。
そして片目だけ出して、女を見ていた。