1
20歳の頃、私はカナダに1年間留学していた。その際ハメを外したいと思い、繁華街のバーに向かう。金曜日の夜ということもあり、バーは東京の満員電車並みに混雑していた。人ごみをかき分けながら歩いていると、現地の男性に手招きされる。「私に言ってるの?」とジェスチャーすると、彼は首を縦に振って頷いた。そこで彼の元に向かったけれど、彼は
「俺といれば大丈夫だよ」
と言って抱きしめる。周りの仲間たちが驚いていたので、彼は
「彼女を守ってるんだ」
と仲間に説明していた。
そこで良い雰囲気になり、彼から持ちかけられて連絡先も交換する。後に私から2回連絡したけれど、残念ながら2回とも返信はなかった。留学中はこの彼に片想いしていたものの、時を経て私は日本に帰らなければならなくなる。帰国したは良いものの大学もアルバイト先も女性しかいないので出会いがなく、軽い気持ちでマッチングアプリを始めた。
まずはwithから始める。私は5歳上までの人と知り合いたかったのもあって、年齢層が若めのwithを選んだ。そこで25歳の会社員・Aさんとマッチングする。Aさんは実家で黒い柴犬を買っているそうで、愛犬がLINEのアイコンになっていた。実際に会うとぱっちりした二重の大きな目が印象的で背も高く(176cmくらいかと思う)、なぜアプリをしているのか不思議だったのだ。初デートでは四条河原町のカフェでパンケーキを食べ、2時間くらい滞在していたかと思う。それからAさんにカラオケに行かないかと誘われたけれど、私は知らない人と密室に行くのが不安だったので「仲良くなってからにしましょう」と断った。そのまま駅前でハイタッチして解散する。
2回目のデートでは夕方に合流し、四条河原町にある居酒屋のカップルシートで飲んだ。お酒が入っていたのもあり、恋愛の話をする。
「彼女ができたら行きたい場所は?」
私が訊くと、Aさんは
「ない」
と即答した。私という人間に興味がないのか、そもそも恋愛するつもりがないのかこの会話だけでは判別できない。今思えば「彼女がほしくてマッチングアプリしてるんじゃないの?」という感じだが、当時は若すぎてそれに気づくことができなかった。2人で1万2千円程度のお会計で、Aさんが1万円を出して私は残りを出す。3回目はAさんが行きたいと言っていた、マンガミュージアムに行こうという話になった。
3回目のデートで、マンガミュージアムに行く。烏丸御池駅で合流してそのまま現地に向かった。マンガミュージアムでは一言も会話することなく、お互いが無言で漫画に没頭する。私は内心、何の時間だろうかと思っていた。