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「ここは何なんだ?何が何だか、分からない」
自身の常識を超える事が起こっていると少しは自覚出来ただろうか。先程までの鋭かった目つきとは変わって不安や恐怖の様な色がそこには窺えた。
「あなたはとてつもなく遠い所からやって来たのでしょうね」
「どこなんだここは!?一体どうやった?いや、私に何をしたんだ!何が起こって、、」
男は私の肩を強く掴んで詰め寄ってきた。私が責められる謂れはないが、彼の気持ちも分からなくはない。「これが異世界転移か、なてこったい」と、驚きつつも受け入れられるのはそういう作品で溢れ普段から慣れ親しんでいる私のような日本人くらいだろうし。
「私は何も関与していないわ。あなたが私の家に現れた理由も、誰がどうやったのかも分からない。でも、きっと力になってあげられると思うの。あなたが元居た場所へ帰れる様に協力するし、その間のあなたの保護も約束する。だから少し私の話を聞いてくれない?」
私は肩を掴む男の手に自分の手を添えてできる限り誠意を込めて話を聞いてほしいと伝えた。肩を掴む手の力が弱まる。
「力になるって、君が?やはり何かの術の使い手なのか?」
貴様から君に呼び方が変わった。少しは歩み寄る気になってくれたと思っていいだろう。
「残念だけど私にはあなたを帰してあげられる術も力もない。でも、幾つか方法を知っているの。あなた自身が努力する必要があるのだけど試してみない?」
帰す力はないと言った時、明らかに落胆したのが分かったが後半は期待と何か決意する様な表情に変わった気がする。しかしまだ得体の知れない女の言う事が信用出来ないという感情も滲み出ていて返答はない。
「まあ、とりあえず話を聞いてみて考えれば良いわ」
男にソファを勧めると素直に腰を下ろしてくれた。私は満足気に頷きローテーブルを挟んで向かいに置いてあるオットマンに腰を下ろした。
「さて、まずは自己紹介でもしましょう?私は既に名乗ったけど、改めて。私はこの家の家主で佐藤千歳。千歳が名前だからそっちで呼んでくれたらいいわ。あなたには奇妙な名前だと思えるでしょうけど、両親が私の健康と長寿を祈って付けてくれたこの名前を私は結構気に入っているの。よろしくね」
「先程は状況が分からず混乱していて気も立っていた。君の名前を悪く言って申し訳ない。私はリオン・グランクヴィスト。我が領地に伝わる陽の神にちなんだ名だ。リオンと呼んでくれて構わない」
リオンの自己紹介は私のそれに寄せて名付けの由来を含めたスマートなものだった。名前を悪く言われたのを根に持っている事をあからさまに伝えた、私の品のない自己紹介に気を悪くするでもなく、自分の失言を認め素直に謝罪出来る所からは教養の高さが窺える。彼の置かれた状況なら理解してあげるべきだったろうし、私も素直に謝罪を受け入れ水に流すとした。