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「マジかよ、信じられん。暑さで頭がイカれたわけじゃないよな?」
やはり中々信じられる話じゃないか。そうは思えても、自分の話を否定されるのは悲しい。
「悪かったよ。そんな顔すんな」
私は軽く口を引き結んで少し不機嫌な表情をしてしまっていた。
「千歳は昔から夢みがちなとこがあったけど、ちゃんと想像の話なら想像だとか仮定だとかって言うもんな。今の話はそうじゃなかったから、本当なんだよな」
少し肩をすくめ諦める様子にも見えたが、彼は理解を示してくれた。
「うん」
「で、今日は千歳の仕事ぶりを見せてやって来たと」
「そう」
そこで彼は少し思案すると私に提案してきた。
「ふむ。じゃあ、明日はうちの手伝いをさせないか?」
「え?」
「色々経験させてやりたいんだろ?美容師の仕事以外にも見せてやったらいいじゃないか。俺ならその辺のやつより異世界系の話題には抵抗ないしな。実際に会えばより千歳の話も実感湧くと思うし。リオンの若い時っていうならそりゃイケメンなんだろ?若い世代にウケて客も増えるかもしれないしな。ちゃんと賄いも出すから心配すんな」
最後のが一番の目的だな、きっと。とは言え願ってもない申し出だった。実際本当に信じてもらえているのか分からないが、私はその話に乗ることにした。
「雄真が良いなら、お願いしようかな」
「おう、任せとけ。それでいつまでこの世界に居れるのかは分かってるのか?」
「多分だけどね、予想はついてる。ほら、小説の初めに星並びの祭りがあったでしょ?」
「ああ、ヒロインが転移したきっかけだったな」
「リオンが来た日はちょうどそのお祭りの初日だったそうよ。九日間のその星並びが続く間だけ滞在出来るんだと私は思ってる。そうじゃなかった時はがっかりさせてしまうからリオンには言ってない」
あまり期待させると叶わなかった時にまた悲しそうな顔をさせてしまうからリオンには話さないでおこうと私は決めていた。
この予想が外れていたとしても、まだいくらでも試していない転移例はある。小説のストーリー上には扉が開くタイミングを予想する手掛かりもいくつか思い当たる。
しかし、リオンは必ず帰れるタイプの転移者だと思うから、その時が来るまでしっかり支えるつもりだが、一時でも協力者を得られたのは心強かった。
「ふーん、確かに一理あるな。その間、向こうではリオンは行方不明にでもなってるんだろうか?」
「うーん、どうだろう?そうかもしれないし、精神の一部が残ったリオンが不都合のないように生活を送っているかもしれないし」
「そもそも時間の概念がこの世界通りとは限らないな!その辺は世界の力とかが帳尻を合わせてくれる可能性もあるか」
昔から異世界についてとかをこうして大真面目に考察しあってきた。人のこと夢みがちとか言うが、この男も大概だと思う。
「まあ、そこは私たちが考えてもどうこう出来る問題じゃないわ。とりあえず、明日の開店前に彼を連れてくるって事で大丈夫?」
「ああ、それでいいぞ。二人分のモーニングも用意してやるから千歳も朝飯食ってけよ」
「やった!ありがとう!あ、今のうちに言っておかなきゃいけない事がもう一つあったわ。あのね、リオンには小説の話はしないで欲しいの」
大事なことを忘れるところだった。
「未来は知らない方が楽しいもんな」
「うん。それに、、」
私は彼の蔵書コーナーに目を向けた。先程大変懐かしい気持ちにさせてくれたマンガがそこに並んでいる。
「ほら、あのふしぎな遊戯を繰り広げた星の戦士も、自分が物語の中の人間だって知った時は大変なショックを受けていたじゃない?リオンに同じ思いはさせたくないの」
壮大な中華風異世界転移の物語で、当時小学生だった私達には少し大人な少女漫画ではあったが、二人でそれはもう熱中した作品だ。
「ああ、そういやそんな事もあったな。分かった、気をつけるよ」
明日は8:00、12:00、17:00、21:00の更新になります。




