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たとえ破滅するとしても婚約者殿とだけは離れたくない。だから、遅れてきた悪役令嬢、あんたは黙っててくれないか?  作者: 桜枕
第2章

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第17話 黒薔薇がばらまかれた

 リューテシアはどこに行くにしても騎士団に影から見守られるようになった。


 必要時以外は屋敷にいるようにしてくれているが、彼女のストレスは半端ではないだろう。


 最近はルミナリオの配慮で俺も屋敷にいる時間が増え、毎日のように同じ時間に寝室に入れるようになっていた。


「平気? 負担になってない?」


「はい。まだ見つからないのですね」


「誰か匿っている奴がいるのかも。どこを探しても居ないらしいんだ」


 ぎゅっと握られる手を包み込む。


 マリキスがリューテシアに固執する理由は、彼女が奴の初恋の相手である俺の母に似ているからというものらしい。


 そのリューテシアを奪う、あるいは傷つけることで俺やブルブラック伯爵家への復讐を果たせると思い込んでいるのだ。


「またリュシーを巻き込むようなら容赦しない」


「無茶はしないでください。わたしはウィル様が居てくれれば、それだけで幸せなのです」


「これからの未来を少しでも安心して過ごせるようにしたい。そのためには奴を放置することはできないんだ。ユティバスがダメなら、この世に置いておくわけにはいかない」


「それは――っ」


「俺では判決を下せない。でも、手を下すことはできる。と言っても、それは最終手段だけどね。さぁ、もうおやすみ。また明日だ」


「はい。おやすみなさい」


 優しいキスをして眠りにつく。

 リューテシアが怖い夢を見てしまわないように最近は手を繋いだままで寝るのが習慣化してしまった。


◇◆◇◆◇◆


 とある日。王宮からの呼び出しに応じた俺の前にはトーマもいた。


「また悪い知らせだ」


 深刻な顔のルミナリオは窓の外を眺め、疲れを隠そうともせずにそう呟いた。


「南の孤島に咲く黒薔薇の一部が刈り取られていた」


 トーマの方を振り向く。


「その数はざっと100本だそうだ。そうだろ、トーマ」


「はい。島へ上陸してすぐの一帯が何もありませんでした」


「本当に島中に黒薔薇が咲いていたのか?」


「はい。目を疑うほどの幻想的な光景でした。兄さんに言われた通り、僕は薔薇に触れていませんが、圧巻の一言です」


 黒薔薇は取り扱い危険植物だとサーナ先生が言っていたから、トーマにもそのように伝えておいた。

 もちろん、トーマが南へ行くことはルミナリオも了承済みだったのだが、事態は更に悪化しているようだ。


「マリキスか」


「その可能性は高いな。あの孤島へ行くには国の許可がいる。それをせずに向かったのは、現ブルブラック伯爵とマリキス・ハイドだけだぞ」


 俺はトーマと顔を見合わせて視線を下げた。

 若気の至りとはいえ、うちの父がご迷惑をおかけしました、と申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「なんにしてもしばらくは様子見だ。黒薔薇を何に使うのか、皆目見当もつかないからな」


 ルミナリオの発言通り、この話はおおやけにはならなかった。


 そこから数日後の夕方になって事態が動き出した。


「ただいま……っ!? なんで、黒薔薇が屋敷にある!?」


「おかえりなさい。昼間に旅の商人が広場で露店を開かれていて、好奇心に負けて購入してしまいました」


 驚くことに我が家の玄関先には一輪挿しの黒薔薇が飾られていたのだ。


「もしかして黒薔薇は大量にあったんじゃないか!?」


「よくご存知ですね。わたしが行った頃には残り少なくなっていましたが、最初は100本ほどあったそうです」


 俺が慎重に黒薔薇に触れようとしたとき、弾き返されるような感覚に襲われた。


「っ! リュシーはこれに触れたんだよね?」


「はい。包みから出して、こちらの花瓶に生けました」


「他の使用人は?」


「どこに飾るか相談はしましたが、特別触れてはいないかと」


 俺は奇跡の魔術師だから仮に黒薔薇が人体に悪影響を及ぼすようなら、それをレジストしてくれるはずだ。

 さっきの弾かれる感覚がレジストなのだとすれば、リューテシアは何かしらの影響を受けた可能性が高い。


「体に異変はないか!?」


「特には……くしゅん」


 くしゃみをしている場合か。

 可愛いなぁ、もう!


「すみません。鼻がむずむずして。花粉でしょうか」


「そうかもね。何か異常があれば教えてくれ。俺はルミナリオの所に行く」


「今、お帰りになられたばかりなのに!?」


「事態は急を要するんだ。ごめん、リュシー。すぐに戻る」


 俺が王宮に戻ると、ちょうどルミナリオとトーマも国王陛下に呼び出されたとのことだった。


 他の大臣たちとも合流して謁見の間に向かえば、神妙な面持ちの陛下が重々しい口を開いた。


「一大事だ。黒薔薇が王都中にばら撒かれた」


「王都のみではありません。購入者の中には観光客も居たと報告が上がっています。全ての回収は不可能です」


 ルミナリオの上申を聞き、陛下はより眉間のしわを深くした。


「よく聞け、皆の者。黒薔薇の花粉には呪いの力がある。時間をかけて命を奪う呪いだ。治療法はなく、どんな病気にもない死に方をする」


 脈がはやくなる。

 うるさい心臓の音が鼓膜を叩き、考えがまとまらなくなった。


「可能な限り購入者をリストアップし、即刻、黒薔薇は廃棄処分せよ」


 俺はトーマに寄りかかるように脱力してしまった。

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