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たとえ破滅するとしても婚約者殿とだけは離れたくない。だから、遅れてきた悪役令嬢、あんたは黙っててくれないか?  作者: 桜枕
第2章

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第8話 やっぱり天才だった

「何を考えているのですか!? 生徒たちに禁止しているアロマを教員の寮で焚くなんて!」


「はい、はい、はい。すみません」


 腕を組み、目をつり上げながら声を荒げる副学園長先生。

 全面的に俺が悪いのだから反論の余地はなかった。


 昨日、庭園でアーミィと別れた後、どうしてもリューテシアが恋しくなって彼女のコレクションから拝借したお香を寮で焚いたのだ。

 それがバレた。


「そのへんでいいじゃろ、副学園長先生」


「しかしですね、学園長! いくら優秀な卒業生と言っても規則は規則です」


「先生はウィルフリッドの学生時代を知らんかったな。こんなもの可愛いもんじゃよ。在学中はどこだろうが、誰がいようが構わずに婚約者とイチャコラしておったからのう」


「なっ!? それを容認していたというのですか!?」


「毎年おるからの。その年はウィルフリッドだったというだけじゃよ」


 ほほほ、とくしゃっとした顔で笑う学園長。

 この人がいるから王立学園は自由な校風で人気も高いのだろう。


 ただ、赴任した副学園長とは馬が合わなさそうだった。


「もういいです。寮のお片付けはしっかりしてくださいね!」


「はい、すみませんでした」


 カツカツカツと当てつけるようにヒールの音を鳴らす副学園長が去った後、学園長先生に改めて謝罪したのだが、特に咎められることはなかった。


「さて、帰るか」


 心配過ぎて三回も部屋の中を隅々まで見て回ったが、忘れ物はなさそうだ。

 換気もしたし、これで副学園長の逆鱗に触れることはないだろう。


 生徒たちは昼休憩中のはずだ。

 昨日のうちに生徒たちへの挨拶は終わっているから、このまま立ち去ろう。


 そうして正門で待たせてある馬車に向かっていると、背後から「先生!」と呼ばれた。

 振り向くと、アーミィ・イエストロイだった。


「よお。今日から復学だったな。もう悪さするなよ」


「はいっ! お約束はできません!」


 ずっこけるかと思った。

 とんでもなく眩しい笑顔で、そんなことを言うとは末恐ろしい子だ。


「これを見てください」


 こちらを無視して差し出されたアーミィの手のひらを見下ろす。

 すると、何もない手から水玉が生まれた。


「水の魔術……たった一日で!?」


「はいっ。そんなに練習しませんでしたよ。私みたいなグズでもできるので、魔術って意外と簡単なんですね」


「嫌味にしか聞こえないから黙ってろ。絶対に他の生徒に言うなよ。一瞬で嫌われるぞ」


 俺はとんでもない逸材を見つけてしまったのではないか。


「これ、他の先生たちは知っているのか?」


「いいえ。言ったじゃないですか、先生に魔術を見せてあげるって」


 色んな意味でこの子は危険だ。


 王立学園の生徒たちは俺を快く受け入れてくれて、授業の一環として話を聞いてくれたけれど、アーミィだけは俺が勝手に教えた。

 そうしたくなる不思議な魅力が彼女にはある。


 そして、俺の想像を超える結果を出して見返りをくれる。


 この子に関わり続けると危険な気がして、途端に彼女の笑顔が怖くなった。


「昨日、先生が教えてくれた感じじゃなかったです。呪文がすらすら出てくるなんてないですよ」


「あ、あぁ、そうか。感じ方は人それぞれだから」


 俺が言葉に詰まっていると、アーミィは作り出したいくつもの水玉を宙に浮かせ、クルクルと踊り始めた。


 あははっ、と笑いながら水遊びする姿は年齢よりも幼い印象を与える。


「水の魔術をそこまで自在に扱えるなら、マーシャルが喜びそうだな」


 刹那。はしゃいでいたアーミィの動きが止まり、ずいっと顔をこちらに向けた。


「マーシャル様!?」


 そのキラキラ光る瞳はまるで恋する乙女のようだった。


「あ、あぁ。マーシャルだ。知り合いか?」


「い、いえ。そう! そうですよ! あのマーシャル様ですからね、超有名人ですよ。西門の壁に名前もありました」


「俺、マーシャルと同級生なんだよ。そういえば、最近は会ってないな」


 目線を左上に彷徨わせていると、バッグを持つ手が小さな両手に包み込まれた。


「紹介してください!」


「え、あぁ、いいけど。手を離そうか」


「……あ、ごめんなさいっ」


 ばっと手を離し、一歩離れるアーミィ。

 その反応もまた男をダメにしそうなものだった。


「ディードも友達だから一緒に紹介するよ」


「あ、結構です。ディードは別に」


「酷くない!? あいつ、めっちゃいい奴だぞ! しかも呼び捨て!」


「だって、ディードは優柔不断だから」


「え、なんでそんなこと知ってるの!? やっぱり知り合いなのか!?


「……おっと。忘れてください。とにかく、マーシャル様には一度お会いしたいです! 先生のお住まいは王都ですよね。こちらから伺います。きっと連れて行ってくださいね」


 勝手に話を進めるアーミィをなだめようにも、興奮した彼女は聞く耳を持たなかった。


「やった。マーシャル様に会える」


 小さくガッツポーズをする彼女を見れば、強くは言えず、了承するしかなかった。


「すぐに行きます。王宮の前で待ち合わせにしましょう」


「分かったから、早く午後の授業に戻れ」


「ん? 午前の授業には出ていませんし、午後も出るつもりはありませんよ。外出許可を貰ってきますから、先に馬車でご自宅にお戻りください。後で追いかけて、今日は王都の親戚の家にでも泊まります。明日、伺いますね」


 はぁぁあぁぁぁぁ!!??


 朝イチで来るってことかよ!?

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