★88 流星を纏う少女
稲光を纏う流星が曇天の空に走る。
それはやがて、凄まじい破裂音と共に投げられた岩石に直撃した。
辺りが一瞬凄まじい光に包まれ、明るくなる。
「アルル!?」
まさか、彼女はここまで術式を進化させていたのか。
先程まで空にはあった岩石は流星に砕かれ、散り散りになって消えた。
「ドッグ!! 城壁だ、城壁を作ってくれ!!」
稲光を纏いながら、空を飛んでいるアルルがこちらに向かって叫んでいる。
ん、城壁だって?
まったく、訳がわからん。訳がわからんが、アルルがワザワザ言うのだから必要なのだろう。
見ると、彼女は港の方を指して、剣で弧を描いている。
「成る程、街を守る壁を作れと!」
直ぐ様、港へ駆け出す。
まったく、情けない限りだ。こういう時、日頃から鍛えておけば良かったと思わざる負えない。
アルルとは真逆だな。僕は如何せん頭でっかちでいかん。
「はあ、はあ……」
急げ急げ!!
「ドッグ、速くしろ!!」
彼女の叫ぶ声が頭上から聞こえると、突然僕の身体がフワリと浮かんだ。
バチリバチリと弾ける音が耳元に聞こえる。見ると、目と鼻の先にアルルの顔があった。
「ドッグ!! 海に落とすからな、それまでに詠唱を済ませろ!!」
「う、うおおおぁあ!! わ、わかったぁぁ!!」
凄まじい風が顔面に当たる。
こんな強風を受けながら、彼女は術式を操っているのか。
「う、うおぉぉ!! 荒ぶる波、凍てつく風、立ち塞がる壁、全てを白き霜に包み氷塊に変えよ!!」
「しゃ!! 後は頼むぞ、ドッグ!!」
そう言った瞬間、彼女が手を離し、僕を海に投下する。
そこまで、高さは無いのだろうが、凄まじいスピードで海面が迫ってくる。
意を決して、両の手を海に突き付ける。
「うおぉぉ!! 氷の章、四十一章、ベルーナの氷壁!!」
蒼い光が僕の手から放たれ、海面に触れる。
その瞬間、海面が凍りつき氷界を造り出す。それと同時に僕の膝が氷に突き刺さる。
余りの衝撃と激痛に顔が歪む。
堪えろ、僕!!
魔力の放出を止めるな!!
僕の魔力で作られる氷界がみるみると広がっていき。幾つもの氷柱が伸びていく。その狭間で大海魔が触手から岩石を投げるのが見えた。
その光景に背筋がゾッとする。
触手は先程とは違い、横凪ぎに振るわれると細かい岩石が勢い良く撒き散らされる。
コチラも早急に魔力を海に流し込み、氷の柱で城壁を築き、港を囲む。
その瞬間、凄まじい衝撃と音が五月雨式にやってきた。
「はあ、はあ…… か、間一髪だったな」
「流石、ドッグ!!」
見ると、空を飛んでいるアルルが、コチラを見て親指を立ててニッコリと笑っている。
その仕草が何を表しているかわからないが、取り敢えずそのまま返してみせた……




