表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-日常それは白昼夢の様に-
9/95

☆8 フラッシュバック

 俺とドッグは、食堂での騒動が冷めやらぬ中、授業を受ける為に足取り速く教室に向かって歩いていた。


 不意に欠伸が漏れる。


「ふにぁ、はうー。腹が一杯になったら眠くなってきたぜー」

「君は食べ過ぎなんだ、アレだけ食えば眠くもなるさ」


「確かにそうだなぁ、へへへ……」


 思わず笑みが溢れてしまう。

 腹一杯食えて、食ったら眠くなる。

 なんて幸せなんだ……


 スラムで生きてた時とは大違いだぜ……


 不意にドッグを見ると怪訝そうな表情でこちらを見ている。

 どうやら、何か不満があるらしい……


 まあ、無理もない……


「悪かったよ魔術を使っちまって。でもよ、加減はしたんだぜー」

「それはわかってる。僕が不満に思ってるのはそこじゃない。そこじゃないんだ……」


 ドッグはそう口にすると視線を落とし、強く拳を握った。

 俺は良くわからないので、先程持ち帰ったパンを軽くかじる。

 

「人殺しと言われたじゃないか……」

「まあ、本当だしな……」


 そう口にした瞬間だった。

 俺の両の肩をドッグが勢い良く掴んだ。


「それだよ、僕が気に入らないのは!! “アレ”について、君に責任は無い。なのに奴は衆目の場で君を貶めた。それに何よりも僕が気に入らないのは君が、君が!!……」


 ドッグが張り裂けそうな声を挙げたと思うと、その声はみるみると弱々しく消え入りそうになって行った。


「君が人殺しの汚名を、甘んじて受け入れていることだ……」


 しかし、それに反して俺の肩を握る手には力が込められて行く。


「君はもう少し、自分を大切にするべきだ、怒るべきだ……」


 その瞬間、あの悪夢が脳裏を過る……

 暗い裏路地に蒸せ返る様なニオイ……

 そして、コチラを掴む男の手……


「ド、ドッグ…… 手を、手を放しちゃくれねーか…… ちょっと、こ、こえーよ……」


 自分の声が震えて上ずっているのがわかる。

 自分の身体から血の気が引いていくのがわかる。

 呆れたもんだ。もう、何年も立ってるのに。未だに、このトラウマが拭えないとはな……


 我ながら、情けねー。


「あ、す、すまない……」


 ドッグは我に帰ると、俺からゆっくりと手を離した。

 

 自分の身体が僅かに震えているのがわかる。

 まるで自分の身体が、自分の物じゃねーみたいだ。


 そんな俺をドッグが申し訳なさそうに見ている。


 本当に情けねーな、俺は……

 こんな良い奴を、あんな顔にさせちまって……


「おいおい、そんな顔すんなって。俺は大丈夫だからよ。へへへ、さあ、早く教室に行こうぜ。早くしないと遅刻しちまうんだろ?」

「あ、ああ、そうだな……」


 暗い顔をしたまま、ドッグは教室に向けて歩き出した。

 俺も僅かに震える足を前に出し、なんとか歩き出した……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ