☆85 昼下がりのコーヒーブレイク
先程までの天気は姿を変え、灰色の雲が空を埋め尽くす。
雨の臭いが辺りに立ち込め、今にも雨が降りそうな雰囲気が辺りを包む。
「御待たせしました。ミルクティーとコーヒーをお持ちしました。それではどうぞごゆっくり」
「どうもありがとう」
美青年はウエイトレスに笑顔を向けて一礼する。その色気に吊られ、ウエイトレスが頬を赤らめる。
おーおー、見せてくれるじゃねーの。
ウエイトレスが恥じらいの表情を浮かべながら立ち去ると、それを見守っていた美青年はこちらに向き直った。
「どうしたんだい。そんなに僕を見詰めて。ジェラシーかい?」
なんか、突然色男面をし始めている。残念なことに、俺の中では色物芸人枠なので、コーヒーを鼻で飲んだりし始めないかと期待してたりする。
「だからよー。さっきから何度も言ってるがオメー何者なんだ?」
俺の言葉に、美青年はやっと神妙な面持ちを作る、そして、先程運ばれてきたコーヒーを啜る。
俺も取り敢えずミルクティーをすする。うん上手い、いい香りがする。茶葉がいい。
すると、彼がおもむろに口を開いた。
「僕は黒の師団。師団長ジェイソン・ブラック」
「ぶほっ!!」
思っくそ、ミルクティーを吹き出してしまった。
見ると、目の前の男は無様にもミルクティーまみれになったている。
「テメー、このヤロー。良くも俺の目の前にはミルクティーだらけの顔をだせたな!!」
「いや、ミルクティーだらけにしたのは君だからね!」
すると、コートの内ポケットからハンケチを取り出し、ミルクティーを拭った。
どうする、ここでおっ始めるか!?
迷いながらも、剣に手をかける。
「ああ、お待ち下さい。今日は貴女と刃を交えに来たのではありません。是非とも、その手をお納め下さい」
「テメー、抜く抜けと……」
男はおまむろに店内を指差す。その方向に目をやると数人の客が座っている。
何事かと、コチラを見ている人もいる。
「ね? ここには民間人もおりますし。貴女も本意ではないでしょ?」
「テメー……」
おもむろい男程度に思っていたが完全にハメラレた、油断した。
やっぱり、知らない人と喋っちゃいけねーな。
俺は渋々と席につく。
「ああ、よかった。貴女が話のわかる方で安心しましたよ。面白くて話の通じる方は大好きです」
「おもしれーのはオメーだろ」
俺の言葉を聞いて、その整った顔立ちが不敵にニヤリと笑った。
「そう言ってくれると僕は嬉しいですね。さて、それでは本題に移りましょう」
真紅の瞳が俺を見る。
品定めする様に、俺の全身をゆっくりと眺める。
その視線にわずかに嫌悪感を覚える。
コイツ、俺の事を若干性的な目で見てやがるな。
なんとなく、だがわかるぞ。
まあ、ドッグやロックにはそう言う毛が無いかと言ったら嘘にはなるが、ちゃんと本人が自制しているのを感じるから嫌悪感は余りない。
だが、コイツはそう言った自制の念が感じられない。まるで、旨そうな飯でも見るようにコチラを眺めてくる。
「アルルさん。貴女、黒の師団に来ませんか?」
「……それが、テメーの目的か?」
まったく、馬鹿馬鹿しい。
俺が黒の師団になんて行く訳ねーだろ。
「あり得ない話ではありませんよ。それに貴女の白の師団での立場からしたら、こちらに写るのは悪い話ではありませんよね?」
「馬鹿馬鹿しい。テメー、寝言は……」
その時、ある違和感が頭を過る。
なんで、コイツは俺の事を知ってた? それに、なんで俺の白の師団での立場も知っていた?
まさか……
「おい待て、まさか、白の師団に裏切り者がいるのか?」
俺の言葉を聞いて、その整った顔面が不敵に歪んだ。




