☆83 不審な男
心地の良い風が頬を撫でる。
久方ぶりの外の空気で、身体の空気が入れ替わるような感覚がする。
気持ちがいいな……
だけど、少しだけ湿った香りも鼻につく。別に嫌いじゃないが、今夜は雨になるな……
「おい坊主、あんた、白の師団の人間だろ?」
おん? 誰だコイツ、ナンパか?
見ると、船乗りが俺に向かって話に掛けて来ていたらしい。
「何度来ても申し訳ない無いんだがレイムロックへの航行はまだ出来ねぇんだよ……」
「何度も?」
俺の言葉に船乗りが驚いた様子で口を開いた。
「うん、その声…… アンタ、女かい?」
「え? ああ、まあ……」
今回は声で女の子認定されたらしい。
成長したのかしら?
「いや、そんなことより。何度来てもって……」
「ああ、アンタの連れがここ数日ずっと来てね、しつこいったらありゃしないんだ。こっちも暇じゃな無いんだ、困っちまうよ」
ああ、成る程、そーなのか……
あの二人、なんだかんだ俺の目を盗んで頑張ってくれてたのか……
「そーか困ったな……」
「ああ、困ったもんだよ……」
はてさて、それを知ってしまった俺はどうするか?
「なあ! 俺たちをレイムロックに連れてってくれねぇか!?」
「うわっ、ビックリした!? いきなりなんだアンタ、今の今までそういう雰囲気じゃなかっただろ!?」
雰囲気とか知らん。レイムロックに連れてけい。
「レイムロックに連れてってくれ!! レイムロックに連れてってくれ!! レイムロックに連れてってくれ!!」
秘技・レイムロックに連れてってくれbot。
「あー、うるさいうるさい。おい!! お前ら、このお嬢さんを追い出してくれ!!」
「アイアイサー!!」
掛け声と共に屈強な大男が俺の前に立ち塞がった。
その後ろにいる船乗りは、何処かへ帰ろうとしている。
「ちょっ!! レイムロックに連れてってくれ!!」
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
うわー!! お引き取りください!botだ!!
目には目を歯には歯を、botにはbotをか……
やるじゃねぇか!! だが、俺は負けねーぜ!!
「レイムロックにっ……」
大男を掻き分け、船乗りに向かって突き進む。突き進む、突き進む、が……
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
お引き取りください!botの前に俺は無惨に押し返された。
くっ!! なんと言う屈強なお引き取りくださいbotだ。
尚も、お引き取りください!botは俺を港から追い出す為、俺を港の外へ外へと押しやっている。
く、くそぉ!!
なんて、屈強なbotだ!!
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
「お引き取りください!」
その時、botの鳴き声と共に声が聞こえてきた。
「まったく、レディに何て対応をするんだい?」
涼しげな声色が響く。しかし、その声は何処か力強く、不思議が感覚を覚えさせた。
不思議とその場にいた全員が制止した。
見ると、銀髪の青年がコチラを楽しそうに眺めていた。
笑いながらコチラを見ると瞳が燃えるような真紅に染まっている。
その美しい瞳の色に思わず目が奪われる。
それは他の人達も同じだったようで、まるでその瞬間時間が止まったような沈黙が訪れた。




