★81 騎士の太刀筋
二人の男が真剣を手に立っている。
そんな状況で行われる事は唯一だ。
「おいおいおい、なんだよこれ。これじゃあ、決闘が始まる見てーじゃねーか……」
まさにアルルの言葉通りそうなのだろう。
僕達の二人の姿を確認すると、ロックが声を挙げた。
「アルル、お前は剣を教えてくれと言ったな! 今ここでお前に剣を教える、良く見ておけ!!」
「!!」
アルルの顔色が変わる。
「アイツ、完全にキレてる訳じゃねーみたいだな」
そうなのか? まったくわからん。完全にブチギレてる様にも見える。
「あと、ヒイロとか言ったな。テメェも俺の剣を良く見ておけ。レイムロックの騎士の剣だ」
彼の持つ大剣が青年に向けられる。
その言葉に青年は息を飲む。
無理もない、かの音に聞く騎士王黒の剣、大陸最強とも云われる剣だ。どれ程の物か気になる。
今まで、彼が剣を抜くことは無かったが、ついにそれが見れるのか……
「正直、何がどうなってるかわかりませんが。受けて立ちます。どうぞ何処からでも来てください」
青年が剣を構える。その矢先、ロックが目に纏まらぬ速さで駆ける。
まさに獣の様に……
「はえーな……」
アルルが言葉を漏らす。
瞬時に振り上げられた大剣が凄まじい勢いで振り下ろされ、土埃を高く挙げる。
一瞬、殺してしまったのではと思ったが、そんな疑問は直ぐに消え去った。
「なっ! はやい!」
思わず声を漏らしてしまった。
気付けば、ロックの後ろに青年が回り込んで居たのだ。そして、その手を振り抜き剣を振るう。
しかし、ロックはそれを予期していたかのように身を翻し、大剣の後ろへと周る。
「上手い、剣で受けるんじゃなく。自分が剣の周りを動くのか!」
「な、なるほど……」
アルルの言葉に思わず納得する。
甲高い金属音と共に両者の剣が衝突する。ロックはそれと同時に円を書くようにして剣を凪ぎはらって見せた。
その余りの風圧に、またしても土埃が舞う。
青年はその攻撃を間一髪で躱すと、後方へ跳躍する。
凄まじい、攻防一体の戦いが繰り広げられている。
「そこで引いたら駄目だ」
アルルがそう呟く。
次の瞬間、大剣が音を立て、風を切りながら飛び上がった。そして、それは後ろに跳躍した青年を追う。
青年が後方へと跳躍する瞬間、ロックは彼を追い前方へと駆け出しだのだ、またしても獣の様に……
そして、その振り上げられた大剣が風を切り、勢い良く青年の頭に振り下ろされた……
誰かの叫び声が辺り響く。
絹を咲くような女性の金切り声に、嗚咽にも似た男性の呻き声。様々な声が耳に届いた。
しかし、限り無い程、緊張感のあった空気は次の瞬間。その光景を見た一堂の溜め息にも似た感嘆の声で一変した。
あれ程までに勢い良く振るわれた大剣が、青年の頭上数センチでピタリと止まっているのだ。
「すげーな。アレがマジモンの騎士か……」
「ああ、まさか、アレ程とは……」
まさに、曲芸染みている。しかも、それを真剣を持った相手にやってのけてしまった。
恐ろしい程の使い手だ……
ロックはおもむろに大剣を退くとその背に戻し、口を開いた。
「俺ら剣士は剣を手足の様に扱わなきゃならねぇ。寸止めだって当たり前に出来るようにならなきゃなんねぇ。故に、木剣とは言えども寸止めもできねぇ野郎が防具もつけねぇで仕合なんてすんじゃねぇ!! いつか、本当に人を殺しちまうぞ!!」
青年が呆然として立ち尽くす。
「取り敢えず、テメェに恨み言の一つや二つ言いてぇが。今回はこんなところで勘弁しておいてやる。あと、アルルは俺の何倍も強いからな覚えておけよ」
周りの群衆も彼の言葉に完全に圧倒されている。各言う、僕もその一人だ。
余りにも実直で誠実で重い言葉だ……
確かにそう言った抜かりが、アルルの怪我を招いたのかもしれない……
恐らく、先程の言葉は何にでも当てはまる言葉だろう。
そう、きっと魔術でも……
ロックがゆっくりとした足取りでコチラにやってくる。
「よ、アルル。流石にオメェは俺の伝えてぇことはわかってるよな」
「ああ、俺みたいな非力なタイプは剣じゃなくて、身体を動かせってことだろ?」
アルルのその言葉を聞いて、ロックは嬉しそうに笑った。




