☆74 心踊らない旅路
海猫がニャーと鳴いて、俺の視線の遥か先で揺れる様に飛んでいる。埠頭から吹く強い風に髪が欠き乱される。
そして……
「一体、どういうことだ船が出てないって!!」
「おいおい、頼むぜぇ、どうにかして船を出せねぇのか!!」
我が一行の男達が荒げる声で心が欠き乱される。
もう楽しくない。
いきなり問題発生である。
なんでも、危険な魔物が近隣海域で出没したらしく。レイムロックへの航行は当面見合わせとなっているらしい。
もう、帰りてーや。
「その出てきた魔物を我々が討伐するから、船を出してくれないか」
「そりゃ構わないが。いくら、白の師団とレイムロックの騎士と言ってもあれは部が悪いぜ。少なくとも、ウチらはアレがどっかに行くまではあの海域には近づかねぇ。行くなら、アンタらで勝手に行ってくんな!!」
その言葉を残して船乗りは作業に戻ってしまった。
取りつく島も無いって奴だな。
二人が残念そうに戻って来るのが見える。
「で、どうするんだ?」
俺の問いかけにドッグが難しい顔をする。
「どうするもないな。今日は取り敢えず屋度を取って。明日もう一度出直すしかあるまい。それで駄目そうなら陸路で行くしかないな」
「時間は掛かるが。その方が良いだろうな……」
「まっ、そうだろうなー」
ま、駄目なもんは仕方ない。それにまだ陸路が有るんだ、そっちの方で急ぐしかねーだろうな。
俺達はそのまま、屋度を借りる為にこの街のギルドへと向かった。
白の師団は各地のギルドとも協力関係を築いている為、その施設の利用も許されていたりする。
便利で助かるぜ、流石は白の師団。
この街のギルドは《青の冒険団》と言う名前で、力強い海の戦士達が多く所属しており、海での戦闘や海中の捜査なんかが十八番らしい。
らしいが……
「アンタが隊長、こんなガキがかい。まったく、嘘ならもう少しマシな嘘付きな!」
あ、因みにこれは受付嬢が俺に向かって言った言葉だ。
もう、終わってる。何もかも上手くいかん。
「いや、俺…… 一応、たいちょ……」
「さっさと帰んな!」
駄目だここも取りつく島も無い。
も、もう駄目だ……
「もう帰るぞ、ホワイトロックに、今回の任務は失敗だ……」
「おいおい! 待ってくれアルル、頼むよ!! レイムロックの為にもう少し辛抱してくれ、な!?」
俺にすがり付く様にしてロックが言う。
まあ、そうだよな。ロックからしたら国の戦争を止める為にここまで来たんだもんなー、ここまで来てトンボ帰りは勘弁して欲しいよなー
でも、俺の心が既に折れ掛けている。
もう、ポッキリである。
「おいおい、そんな、ガキにおべっか使わないと行けねぇなんて、レイムロックも落ちたもんだな!」
「この分なら、あの国の騎士ってのも大したことねぇんじゃねぇか!?」
ロックの額に一瞬青筋が浮かんだが、直ぐに消え。その後には薄ら笑いを浮かべてみせた。
「あ!! ブッチーーン!! もうキレた、テメーらイカくせーマスカキ海坊主ども。全員まとめて掛かってこいよ、ブッ殺してやる!!」
「お、おい!! アルル、待て!!」
ロックが、次こそ俺にすがり付き制止しようとする。
だが、残念。もう止まんないね。俺をバカにするのは許すが仲間を馬鹿にされちゃ、黙ってられないね!!
もう、ムカついた。もう、何にも上手くいかん。
このイライラを全部全部、コイツらにぶちかましてやる。
「なんだとガキこらぁ!! 舐めてんのかぁ!!」
「テメーらなんて、イカくさくて舐めらんねーよ、イカ野郎!! さっさと掛かってこいや!!」
「テメェ!! コラァ!! ブッ殺してやる!!」
「ああ!! こっちこそ、ブッ殺してやるよ!!」
《術式展開・専権磁界》!!
勝者・俺!!
「へ! 玉無し野郎! これに懲りたら二度と俺に逆らうんじゃねーぞ!!」
と言ったものの、返事をするものは誰もいない。
ギルドの真ん中に人の山が出来上がっている。
皆が皆、苦しそうにうめき声を挙げている。
「お、おい。何やってんだよ、アルル……」
「アルル、君は一体何をやっているんだ……」
よし、スッキリしたぜ!!




