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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-新たなる任務-
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☆72 スラムでの思い出

「今から、この石で面白いことをしてあげましょう」


 て言うか、これ見えてるのかな?


「その石がどうしたんだい?」


 ああ、よかった、見えてる見たいだ。


「ふふふ、スラムに居た時に良くやってたんですよ。見てて下さい」


 そう言って、私は石を天に向かって投げた。


 すると、不意に木々がガサガサと音を立てて揺れ、何かが飛びたった。

 それは私が投げた石を掴むとバサバサと音を立てて飛び上がるが、僅かに飛び上がったように見えたが、そのすぐ後に地面へと落下して来た。


 ボトリ、と音を立てて落ちたそれはバサバサと飛び立とうと羽ばたくが、石が重いらしく飛び立てずにもがいているばかりだった。


「な、なんだ!?」


 ライルくんが驚いたと言った様子で声をあげる。

 そして、先程落ちてきたそれを凝視し、その正体がわかると声を上げた。


「こ、コウモリか!?」


 そうコウモリだ。

 私は得意気にライルくんに向かって口を開く。


「コウモリは目ではなく、超音波で周りの状態を探ってるんです。だから、石とかを投げたりすると餌と勘違いして飛び掛かったりするんです。そして、飛び掛かったは良いものの石の重さに耐えられるそのまま地面に落ちちゃうんです」

「は、はぁ。これは驚いたな、良くそんなことを知ってるな……」


 ライルくんが感心した様に肥を漏らした。

 ああ、少し思い出してきた、懐かしいなぁ……


「スラムで食べ物が無い時はこうやってコウモリを捕まえて、食べてたんですよ」

「こ、コウモリをかい!? 食べられるのかい!?」

「いいえ、本当は食べられません。変な病気を持ってるんで最悪死にます。でも、その日に死ぬよりかマシなんで」


「スラムの他の子達にも教えてました。これで何人も死にましたけど、何人も救われました。あの子達は今も元気かなぁ……」


 ああ、少しずつ思いましてきた。

 スラムでは子供達で集団を作って、毎日毎日、大人達に負けないように頑張ってたなぁ。


「驚いたな、スラムで友人が居たのか?」

「ええ、居ました居ました。確かに、何人かは白の師団の孤児院に連れていかれてたんでホワイト・ロックに居るはずなんですけどね……」


 あの子達はどこに言ったのかな?

 皆、元気かなぁ……


 俺の方を見るライルが嬉しそうに表情を歪めた様に見えた。


「なんだぁ、なにが可笑しいんだぁ?」

「いや、そうか。スラムの生活は悪いものばかりでも無かったんだなと思ってな。なんだか、少し世も捨てたものじゃないなと思って……」


 あー、うーん、まぁ、そうか……

 

 なんだかんだ、俺も孤児院でいい生活とは行かないまでも、最低限の生活はさせたくれたからな、それはそれで捨てたもんじゃない。


 その孤児を将来の兵隊にするのが目的じゃなければだかなぁ。


 ライルの奴はそれを理解して笑ってんだか……


「まあ、そうだなぁ」

「ああ、そうだな。いつか離ればなれになった友人と再開できたら良いな」


 そう言うとライルは不意に大きな欠伸を吐いた。

 どうやら、俺の詰まらねぇ昔話も少しの役には立ったみてぇだな。


「さて、それじゃ明日もこってり歩くし、ゆっくり休んでくれや」

「ああ、そうだな。ありがとう、アルル……」


 そう言うと、ライルはその瞳を閉じた。

 

 暫くすると、穏やかな寝息が聞こえる。

 久し振りの沈黙。穏やかな夜。心地の良い距離感。


 組織からは干されて、ホワイト・ロックからは追い出されたが、これはこれで俺らしいんじゃねぇかな……


 そうだな組織に属して生真面目にやるより私らしいな……


 ふと、前世で聞いた記憶のある鈴虫の音色が響く。頬を撫でる風にほんのりと夏の香りを感じる。

 心地の良い風に身体を預け、少しの間、自分の置かれた状況を忘れて揺蕩う。


 ああ、俺の今ある現状は夢なのか。それとも、ある日この夢が覚めて前世の世界が現実だったと知らしめられるか。


 そして、俺にとって、どちらが好運なのか……

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