☆71 コウモリ
暗闇の中、思い出したように動く影が見える。
眠れないんだろうな。彼にとってはこの野宿はかなり答えるはずだし。
「ライルくん、眠れませんか?」
「あ、ああ。すまない、アルル、起こしてしまったかい?」
仕方ないよね。今までは白の師団のあのベットに横になって寝ていたんだ。
アレはイイ。スラム育ちの私からしたら、極上の睡眠環境だ。そのせいで寝過ぎて遅刻の常習犯になっちゃったけど。
「いいえ、私も眠れなかったんで」
「そ、そうか、それはよかった」
本当は今の今まで寝ていたけど、別にそこに角を立てるつもりはない。冷静に考えると、一人くらい起きてないと不用心だし。
私は数分寝れれば問題ない。
スラム育ちの特性だ、根性、雑草魂でどうにかなる。
だけど……
「ライルくんはキツイでしょ。こんな環境で眠るなんて」
「ああ、正直、君や彼が羨ましいよ、こんな所でも眠ることが出来て……」
暗闇の中で徐々に目が慣れてきたのか、ライルくんがロックさんを方を見たのがわかった。
ロックさんは、大剣を抱くようにし、木に背中を預けて眠っている。
規則正しい寝息が聞こえてくる。
「彼も完全に眠ってる訳じゃ無いですよ。何かあった時の為に半分は起きてます。夢うつつって感じですかね」
「成る程。彼も、と言うのとアルル、君もかい?」
ライルくんの言葉に頷いて見せる。
この暗闇の中で私の動きが見えたか、それはわからないけど、反応からして何となく見えたように感じた。
「そうか、凄いな君は、ほんの少し前まで同じ候補生だったのに、僕も速く君達に追いつかなければ……」
「ゆっくりで大丈夫ですよ。これは長い期間を通して馴れるしかありませんから」
私の言葉を疑問に思ったのか、暗闇の向こうでライルくんガサリと音を立てた。
「馴れる? ああ、そうか君はスラムで……」
「ええ、スラムで能天気に寝ていたら、次の日には冷たくなってますからね。何かあった時には咄嗟に反応できるように成るんですよ」
しばしの沈黙が訪れる。
ほんの少し風が頬を撫で、香りが鼻先を通る。
そんな沈黙の後にライルくんの声が暗闇から絞り出される。
「すまない、羨ましいなんて言って。君は望んでそうなった訳じゃないのに……」
「いいですよ、私は私でホワイト・ロックに居た時は散々寝坊しましたし」
とは言うものの、ライルくんの事だから必要以上に木にやんでいるのだろうな……
はてさて、どうするか、なんか気でも紛らわしイイ話題はないかしら……
あ、そうだ!
私は近くにあった石を拾ってライルくんに見せた。
「今から、この石で面白いことをしてあげましょう」




