☆69 見送り
「メイちゃん! 元気だった?」
そう言うと、メイちゃんは可愛いらしい満面の笑みで答えてくれた。
「うん! お姉ちゃんのお陰で元気一杯だよ、お母さんもね、直ぐに元気になったんだよ!」
見ると、メイちゃんのお母さんが丁寧にお辞儀をして見せた。
私もそれに返事をするように、軽くお辞儀をする。
よかった、無事だったんだね……
本当によかった……
私も少しは、何かを守れるようになったのかな……
「お姉ちゃん、見てみて!」
そう言った、彼女の手には花の冠が握られていた。
「わあ、綺麗だね! メイちゃんが作ったの?」
「うん!! お姉ちゃんの為にね作ったの!!」
そう言うと、彼女は私の頭に花冠を乗せた。
「えへへ、お姉ちゃん!! 妖精さんみたい!! 綺麗!!」
驚いた、わざわざ私の為に作ってくれたんだ。嬉しいなぁ……
思わず頬が綻ぶ。
「ありがとうね、メイちゃん……」
見ると、他の人達も私の周りに集まってきた。
不意に、一人の老婆が私に近寄ると手を握ってきた……
「私はあの日、貴女の指揮する隊に助けられたんだ。もし、貴女が居なかったら、私は黒の師団にやられてた。どうもありがとう」
ああ、覚えてる。
たぶん、この人は最後に逃げていた集団にいた人。
「いえ、いいんですよ」
「アルル隊長!」
また不意に声をかけられる。
見ると、そこには白の候補生がいた。
確か、彼女は……
「君は私の隊にいた……」
「はい、ミリルと申します」
やっぱりそうだ。
彼女は私についた血を見てみて真っ青になってた娘だ。
前回、会った時は腰まで伸びた金髪だったんだけど……
「髪切ったんですか?」
「は、はい……」
私がそう言うと、彼女は赤面した。
どうしたんだろ?
ハッ、と思い。彼女に耳打ちする。
「もしかして、失恋ですか?」
私がそう言うと、彼女は大きく首を振った。そして、私の手を強く握ってきた。
「あ、貴女に憧れて、お、同じ髪型に……」
そう言うと途中でゴニョゴニョと言い淀んでしまった。
ああ、なるほど、確かに私とお揃いだ!
「本当だぁ、お揃いですねー!」
「は、はい!!」
なんか、わからんが私に憧れているらしい。なんででしょう?
ま、まあ、いいけど……
「貴女も頑張って下さいね!」
「は、はい! 貴女の隊には入るために頑張ります!」
お、おおう……
そ、そうか……
「アルルや……」
聞き馴染みのある声変わり私に届く。
パウル師範だ……
「師範、行ってきます!」
「ああ、気を付けるんだぞ!」
そう言う、師範は花冠をした私の頭を撫でてくれた。
なんだか、恥ずかしい……
皆が笑顔を浮かべている……
私が守りたかった物が、今ここにある……
皆の笑顔……
そして、これから。それをまた守る為に旅に出る……
皆の笑顔を守るために……
行って来ます、皆……
「皆、行ってきます!!」
そう言って、私はホワイト・ロックを後にした……
皆の手を振る姿が徐々に小さくなっていく。そして、いつしか点となり、またいつしか見ることも叶わなくなった。
そんな様子を目にして、思っても見なかった感情が私の中でも溢れだしてきた。
「へぐっ!! ひぐっ!! ひっぐ!!」
「おい!! アルル!! お前、泣いてんのかよ!?」
ロックさんが私が顔を見て驚愕の表情を作る。
ふぇ~ん、だって……
だって、こんな感じに成るなんて思わなかったんだもん。
もっと、事務的な別れになると思ってたのに……
それなのに皆が、皆がいい人で優しくて、私…… 私……
「えぇぇーーーーん!! えぇえーーーん!!」
「だ、大丈夫かい、アルル?」
ライルくんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
咄嗟に、私は顔を隠した。
「み、見ないで下さい!! い、今、酷い顔ひてると思うので!!」
「あ、ああ、そうだなすまなかった」
そう言うと、ライルくんは何事もなく歩き出した。
うぅ、情けないよぉ、中身はおっさんなのに号泣してしまっているよぉ……
「ははは、そうだよな、冷静に考えりゃ、お前もまだ子供だもんな。仕方ねぇよな……」
そう呟くと、彼は私のために頭をグリグリと力強く撫でた。
「湿っぽいのは好きじゃねぇが。ははは、いいじゃねぇか。こう言うのも悪くねぇぜ……」
「ふえぇぇーーん!! みんな、優しいよーーー!! びえぇぇーーーん!!」
号泣してる私の肩に、ライルくん手が触れる。そして、優しく私の肩を掴んでくれた。
「今は思う存分に泣くといい。君は少し頑張りすぎなくらいだ。少し泣いたって、バチは当たらないさ……」
「ふぐぇ! ひぐっ!! ふぇ!! ありがとう、ライルくん……」
そう言うと、二人は私が泣き止むまで、何を言わずに、ただただ静かに見守っていてくれた。
その静かな沈黙に二人の優しやを確かに感じた……




