☆66 追加任務
「なんだって、僕達が停戦の仲介だって?」
ライルくんの驚きの言葉を、ロックさんが静かに頷きながら肯定すると、紅茶ケーキを口に運んだ。
「申し訳ねぇな、なんだか巻き込んだみたいになっちまって。本当はアンタらを巻き込みたくはなかったんだかな……」
残念そうに溜め息を吐くと、彼はおでこを掻いて見せた。
「その…… アンタ等がやりたくないなら、断ってくれて構わねぇからよ……」
「はあ、そう言う訳にも行かないんだよ、コチラは……」
まあ、いいでしょ。
「私はやるしかないんで、やりますよ……」
どうせ、上の変な思惑があっての事でしょう。ならば、ロックさんはどちらかと言うと被害者だろう。
虫の居所は良くはないけど、仕方ない。私も干されてるから、断ったら、また術式がどうのこうのって言われるだろうし。
まあ、ライルくんは関係ないけど……
「ライルくんは関係無いので、断ってもいいですよ」
「バカを言うな、僕もやるぞ。こうなったら、トコトンやってやるさ」
そう言うと、意思の固さを示すかのように腕を組んで見せた。
私達のやり取りを静かに見守っていたロックさんが、おもむろにケーキを机の上に置くと、深々と頭を下げた。
「アンタらの協力に感謝する。一度、戦ってる姿を見たアンタ等なら問題ねぇ信じられる。なんなら、コチラから頼みたいくらいだった。本当にありがとう」
そう言うと、再び深く頭を下げた。
なんとなく、この人の性格がうかがえる。
口調や態度は少し荒っぽいが、それは戦場で戦う武人だからなのだろう。
だか、その内面は誠実で他人の事を思いやれる騎士としての優しさと誇りを待っているのがわかる。
正直、こう言うと人を助けるのも、頼られるのも悪い気はしない。
同じことを感じているのか、ライルくんは朗らかに笑顔を作ると、ロックさんに向けて手を伸ばした。
「いや、いいさ。僕達はこう言う時の為に居るんだ。些か荷が勝ちすぎている気がするが、ソチラがそう言ってくれるなら、よろしく頼むよ」
「ああ、そう言って貰えると助かるよ」
ロックさんはそう言うと、差し出された手に答えて見せた。
強く、その手が結ばれる。
なんか、やけに仲良くなってるな、この二人……
な、なんかあったのか!?
「二人とも、仲良さげですね……」
「ははは、まあな。アンタもよろしくな!」
ロックさんはそう言うと、こちらにも手を伸ばしてきた。
豆やタコの出来た、剣士の手だ……
その手には一般的な感性とはかけ離れているのだろうが、美しさと言うか、気高さを感じる。
実は、この手を見た時にずっと思っていた事がある。
私は、手を差し出してくる彼に視線を向ける。
私の視線に彼が僅かに首を傾げる。
「ロックさん、私に剣を教えてくれませんか?」
「は?」
その言葉に彼は眉を潜めた。
「あ、アンタにそんな必要があるのか?」
そんな疑問が出る程に、私の剣は見れる物に仕上がっているのだろうか。
それとも術式に目を取られて、私の剣士としての実力をわかってないのか。
恐らく、後者なのだろう。
「私は剣については素人です。私の剣は魔術で誤魔化してるだけなのです」
「それで、あれだけ動けるのか、大した奴だなぁ。まあ、俺でいいなら、基礎は教えてやるぜ、それでいいか?」
私はその言葉に頷く。
「ありがとうございます、助かります。それが依頼料ってことで、よろしくお願いしますね」
「はは。ああ、そりゃいいや。それでアンタを雇えるなら安上がりで助かるぜ!」
そう言うと、私たち二人は強く握手を交わした。




