☆65 紅茶ケーキ
「なあアルル。これで許してくれるか?」
そう言うと、ドッグが俺に四角い箱を渡して来た。
「え~ どうしよっかな~」
こう言う時、女の子は便利だぜ。
正直、昨日の事件は恥ずかしかったが。冷静になってみると面白かったから別にいいやってなった。
かと言って、只で許すのは癪ではある。だから、ホワイト・ロックにある。ラ・グリジェの紅茶ケーキを買って来て貰う事で手を打つことにした。
何を隠そう、俺は紅茶ケーキが好きなのだ……
おもむろに、ドッグの待っている箱を受け取り、中を確かめる。
ふふふ、これよこれよ……
箱を開けるとアールグレイの香りがふわりと私を包み込む。
丸いホールケーキではなく、四角のスクエアケーキ。
クリームには紅茶の香り、スポンジにはアーモンド、そして、全体からほのかに香る紅茶リキュールの香りと、心地好い素敵な茶葉の苦みばしった香りがする。
はふぅ……
ああ、良い香り……
ふふ、やはり俺は紅茶ケーキが大好き。
なんなら、前世でも好きだったと思う。たしか……
「どれどれ……」
胸を踊らせながら、ケーキを三等分に切り分ける。
一つは俺。一つはドッグ。そして、最後の一つはロックに残しておく……
わくわく……
いつか買おうと思ってたけど、高いから二の足を踏んでたんだよな。
この世界のケーキが、前世の世界のケーキとどれだけ違いがあるかもわからなかったし。
高い金出して、美味しくなかったら嫌だしな。
今回はいい機会だ、皆で試食会と洒落込むぞ。
「はい、ドッグ」
「ん? あ、ああ……」
さて、いただきまーす。
用意していた、フォークでケーキを裂く。そして、突き刺し口へと運ぶ。
「ふん!」
口の中に紅茶リキュールの香りが広がり、クリームの柔らかい甘味と共に、ほろ苦い茶葉の苦味が風味として現れる。
スポンジに混ぜられたアーモンドの感触が心地いいアクセントになり、口の中に存在感を出しながらも、他の甘味と調和を取りながら優しく広がっていく。
「ふひひ~」
思わず、頬がほころぶ。
おいひぃ~
満点ですよ、この世界のケーキ。前世の世界と比べても勝るとも劣らない。
正直、前世の記憶も曖昧だから、変に思いで補正がかかっちゃって美味しく感じないかも、と不安に思っていたけど、そんな事なくてよかった。
「うむ、これは中々行けるな。紅茶に合いそうだ」
「うんうん、そうでしょそうでしょ」
行ける口だねぇドッグ。
俺がニヤリと笑うと、彼も朗らかに笑った。
へへへ、今回はドッグの驕りだから得しちゃったぜ。
そして、この世界のケーキも美味しいと言う事がわかった。これは人類にとっては別に関係ない一歩だけど、俺にとっては大きな進歩だ、
ふひひひ……
「よかった、君が機嫌を直してくれて……」
「うんうん、もうバッチリ!」
何度も頷きながらケーキを口に運ぶ。
再び、紅茶の香りが口に広がる。
はう、幸せ……
しかし、この時はまだ俺達は知らなかった。
この数分後、俺達に追加の任務が下される事を……
そして、その任務が俺の運命を大きく変えてしまう物だと言う事を……




