☆64 二階層、城壁
「ほれ、アルル。ここからなら街が一望出来るだろ?」
その時、鋭い風が頬を撫でる。
階層が高いからか、それとも今日がたまたまそういう日だったのか風がそこそこ強い。
「風がつえーな」
「がははは、そうだな!!」
デイヴィットは明らかな笑いを挙げながらハンバーガーを頬張った。
男らしく、大きな口を開きハンバーガーへと噛みつく。
羨ましい限りだ、いまの俺の身体じゃあ、ああやって食う事はできねー。
本当は俺もデイヴィットみてーに、バクバク食いてーんだけどな……
「うん、うめーなこりゃ!!」
彼はそう満足そうに言うと、城壁に肘をつき外の世界を眺めた。
俺は城壁を背もたれにして包み紙を開ける。
「おい、街を見ねーのか。良い景色だぞ!!」
デイヴィットが馬鹿面を浮かべながらコチラを向く。
コイツの精神年齢は小学生かなにかか?
「俺は空を見ながら食べるんだよ」
「おお、なるほど、そうか!!」
俺がそう言うと、なにやら嬉しそうにデイビットが笑った。
マジでコイツの精神年齢は小学生か?
良い意味でも悪い意味でも裏表無さ過ぎだろ。
「ったく。なんなんだよオメーはよ。散々、突っ掛かって来たと思ったらよ……」
「がはは、そう言うなって。コッチも色々勘違いしてたんだよ」
勘違いってなんだっつーの。と思いながらハンバーガーを頬張る。
やはりうまい、おばちゃんの作る飯。
風は強いが別段気にはならないい。
それよりも、突き抜ける様な青い空と、この世界の空気が心地よく身体を染みる。
食事と一緒に、この世界の空気を取り込んでいる様な気分になる。
不思議と心地良い……
まあ、デイビットも悪い奴じゃねーみたいだし。気分も悪くない。
そんな折、おもむろにデイヴィットが呟いた……
「いやな、俺はスラムの出身でよ……」
「オメーもか、奇遇だな……」
ハンバーガーをもう一度頬張る。
デイビットはそんなを俺を見て笑った。
「だからよ、同じスラムの出身の癖に貴族に媚びへつらって、仲良しこよししてるお前が気に入んなかったんだよ。俺は……」
「ははは、そりゃー困った。スラムの出身者はダチも好きに選べねーのかよ」
くだらねぇ、と思いながらデイヴィットを見る。
まあ、そう言うことを態々俺に言うって事は、今はちげーんだろうけどな。
「だけど、そうじゃなかったみてぇだな。色々ろくでもねぇ噂を流してる奴はいるが、あの戦場でのお前の姿を見たら、全部が下らねぇ嘘だって確信したぜ」
ほんの少しの間の沈黙が俺達の間に訪れる。
「そしたら、不思議とよ、お前の事を気に入ってなかった俺が情けなく思えてな……」
……おお、いきなり、一丁前にイイ男の表情しやがって。
自分の弱さを噛み締めながも、それから逃げない強い眼差しが俺を射抜く。
悪くない眼差しじゃねーか。
ぶっちゃけ、俺は嫌いじゃねーぜ。
「避けねぇよな。あんだけイキッてたのによ。前線ギリギリまで行って俺はビビッチまったよ。逆にお前は殿まで努めて、挙げ句の果ては隊長首まで挙げちまうとはよ……」
「ぎゃはは、そんなモンだ。俺だってギリギリまでビビッてたしな……」
そう呟くとデイビットは笑った。
ほんの少し、自嘲が混じってるような笑み。
「正直、俺はチビりそうだったぜ……」
情けなそうに、それでいて恥ずかしそうにデイビットが口にする。
この男にとって、その言葉を俺に吐くと言うことは、相当堪えたのだろう。
だか……
「残念、俺はちゃんとチビったぜ……」
そう言って、ちょっとモジモジしてみせる。
そんな俺を見てデイビットが目を丸くする。
「な、なに言ってたんだ、お前……」
「俺だって怖かったんだ仕方ねーだろ? でもよ、俺がやらねーと、俺らみてーに孤児になって。スラムでしょうもない目に遭う奴が増えちまうかも知れねーだろ? それは出来ねぇよ、違うか?……」
ほんの少しの間、デイヴィットを見詰める。
そして、視線を外し、空を眺める。
突き抜ける様な空が天を覆っている。
「俺等ならわかるだろ、スラムでの生活がどんなに終わってるか……」
俺の言葉にデイヴィットが視線を落とした。
「ああ、“白の師団”に拾われるまで沢山のダチが死んだ。師団が来ても、身体の頑丈じゃねぇ奴は見向きもされなかった。ありゃ、気持ちのいいもんじゃねぇよな……」
「やっぱり、どこも変わんねーんだな……」
二人の間に沈黙が訪れる。
だけど、それでいい様な気がする。
この沈黙を共有する事が出来る奴なんて、そうはいねーだろう。だけど、俺達はそれだけの間柄にはなったと思う……
その後は二人して黙ったままハンバーガーを食べた。
デイヴィットは街の風景を眺めながら。
俺は空を仰ぎながら……
食事が終わって別れる間際、デイヴィットは言った。
「なあ、やっぱり、俺等ダチにならねぇか。同じスラム出身としても“白の師団”の戦友としても……」
そう言うと、デイヴィットは手をコチラに差し出した。
まあ、断る理由はねーか。
「まー、悪友って奴なら、とっくになってんじゃねーか?……」
「かはは、ソイツはいい、俺等にゃピッタリじゃねぇか……」
差し出された手に俺は応えた。
そして、デイヴィットも俺の手を強く握り返してきた。
不意に強い風が頬を撫でる。
それよりも強い、強い眼差しが俺を射抜く。
これは覚悟の決まった男の目だ。
俺も中身は男だ、だから何となくだがわかる……
コイツは強くなる。今よりずっとずっと。
俺なんかの言葉でも、少しは後押しになっただろうか……
もしそうだとしたら、少しだけ誇らしい。
そんな気持ちになった……




