☆63 コカトリスあたま
パンの焼ける良い香りが鼻を刺激する。
数人の候補生が席に座り、おのおのシチューだの、パンだのと食べている。
「おばちゃん、ハンバーガーお願いします」
その言葉と共に厨房の方から紙に包まれたハンバーガーがこちらに飛んできた。
食堂のおばちゃんはこんな事も出来るのだ。
彼女なら、女メジャーリーガーも夢ではない。野球の事は全然知らんけど。
「あんた、隊長になったんだから。さっさと上に行きな。アッチの方が旨いモンあるだろ!?」
厨房の奥からのそりのそりと、割烹着を着たおばちゃんが現れた。
「ははは、残念だったな、おばちゃん!! 俺の居場所はまだここなんだぜ。なんなら、自室もこの階にあるんだぜー」
おばちゃんは溜め息を吐くと視線を厨房へと戻した。
「おう、ばあちゃん。俺もコイツと同じのくれ!」
厨房へと戻ろうとするおばちゃんを止めると、デイヴィットがそう口にした、
デイヴィットの言葉に、おばちゃんが怪訝そうな顔をし、俺達を交互に見た。
一瞬だが眉を潜めると、おばちゃんは不満げな顔をしながらも厨房に戻り手慣れた手付きで挽肉をまとめ、フライパンで焼き。レタスだの、トマトだの、ソースだのバンズで挟んで見せた。
あっという間にハンバーガーの出来上がりである、
彼女なら、女カーネルサンダースも夢ではない。
「なんだいアンタら。いつからそんな仲良くなったんだい。つい先日は喧嘩してたじゃないか」
おばちゃんがハンバーガーを紙に包むと、コチラにズンズンと歩いて来る。
そして、手に持った“それ”をデイビットに手渡した。
「アンタ、この娘に変なことしたら、タダじゃおかないからね」
「おばちゃん、そんなんじゃねぇよ。俺達もうダチになったんだよ」
ダチにはなってねぇよ……
デイヴィットの手がおもむろに俺の肩に回る。
瞬時に、その手をかわす。
すると、重心を崩したのか、デイヴィットはほんの少しよろけた。
「おっとっと、こりゃ参ったな……」
デイヴィットも、流石にそこまで親しくして貰えるとは思ってなかったらしく、乾いた笑顔を俺とおばちゃんに向けた。
「はあ。まあ、仲良くなったんなら良いけど。もう喧嘩はするんじゃないよ!」
おばちゃんはそう言うとハンバーガーをデイヴィットに手渡した。彼もそれを受け取ると嬉しそうに笑って見せた。
「へへへ。で、こりゃなんだ?」
わからずに頼んだのかよ。好奇心旺盛なやっちゃな。
オレガノ呆れていると、彼は“それ”の芳しい香りを嗅ぐため、包み紙を僅かに開けた。
「それはハンバーガーだ」
「ハンバーガー?」
「ああ、ガーって感じだろー?」
俺の言葉に意味がわからないと言った顔をデイヴィットがする。まあ、俺も意味わかんねー。
「まあ、旨そうだからいいか……」
「旨いんだな、これが……」
デイヴィットはおもむろに席に座ろうとする。
俺はそのまま厨房を後にする……
「って、おいおいおい! どこ行くんだよ!?」
「どこだろーかな。今日は外で食べようかと思ってんだよ」
デイヴィットはその言葉を聞いて目を丸くする。
確かに、令婿に考えると“白の師団”って外で食べる習慣がなーんだよな。
余程、偉くならないと外食店なんてできねーし、やらねーからな。
見ると、デイヴィットが目を輝かせながらコチラを見ている。
「おうおうおう! じゃあよ、あそこなんてどうだ?」
そう言って彼は天を指差した。
なに言ってんだ、コイツは?
頭、アッパラパーのパラッパラッパーか?
「なにポカンとしてんだよ。二階の城壁で食うんだよ。俺達だって、一応正団員だろ? お前は隊長だしよ!! 別に二階に上がっても問題はねぇよ!」
すると、彼は俺の腕を取ると早足で駆け出した。
まあ、確かに面白そうだからいーか……




