☆61 夜、騒動
「この馬鹿者ぉぉぉ!!」
ひいぃぃぃぃぃぃん!!
ビックリする程の怒号が俺に向かって放たれた。
起こっているのはドッグ。そして、起こられているのは俺、アルルちゃんです。
「君は休んでいろと言ったじゃないか!! なのに君はここで何をやっているんだ!!」
「ほ、ほえぇ?」
何って……
自分の手に持った物を交互に見る。
左手に砥石。
右手に剣。
場所は井戸の前。
やってることは剣のお手入れ。
「少しばかり、剣のお手入れをしておりましたわ」
「そんな、お貴族様みたいな口調になっても許さんぞ、君は直ぐに部屋に戻って休んでなさい!!」
ひぃぃぃぃぃぃん、ゆ、許してくれないのぉぉぉ!?
な、なんでぇ!?
さっきまで、さっきまであんなに優しかったじゃん!?
俺の事、好きだったんじゃないの?
「で、でも。剣が……」
「剣も何も無い! 今は休むんだ!! 君はここ数日、動きづめなんだぞ!! 少しはベッドの上で休むんだ!! 君は大して身体も強くないだろ!!」
うぅ、た、確かに……
ぐ、ぐうの音も出ないよぉ……
「ほら!! アルル、それを大人しく渡すんだ!!」
その圧に思わず砥石を落とす。
周りを見ると、ドッグの怒号を聞いたのか白の団員達が何処からか、ぞろぞろと現れた。
全員が奇異の眼差してコチラを眺めている。
「なに自殺?」
あれ? なんか思ってた言葉と違う事を言う人がいるな?
「え? マジかよ!」
「おいおい、マジだ、剣持ってるぞ、ヤベェ!」
え? 剣は持ってますけど。剣の手入れしようと思ってただけなんですけど?
「おい、あの女、自殺するってよ」
いや、いやいやいや。
いつの間にかに、俺が自殺しようとしてるみたいになってるじゃん!!
確かに、パジャマに剣を握ってたら、なんか変な雰囲気もしますよね。そうも見えるかもね!!
「ほら!! アルル、大人しくそれを渡すんだ!!」
いやいや、それメッチャ自殺を止めようとしてる人の言葉っぽいから止めて!!
「おーい、なんだこの騒ぎは!?」
人だかりの向こうからロックの声が聞こえる。
そして、人だかりを掻き分け、彼が姿を現した。
「おいおい、アルル!! お前、なんのつもりだ血迷ったか!?」
ロックが俺を姿を見ると、凄まじい勢いでこちらにやって来た。
「おい、冷静になれ! 何があったか知らねぇがお前ならやり直せる。あれだけの剣の腕だ、何処でも生きて行けるだろ? そうだ、ウチの国に来い。お前の腕ならどうにでもなる。だから、その剣を直ぐにこっちに渡すんだ、な!?」
「ち、違う…… 違う……」
ま、まさか、こんな大事になるなんてぇ。
周りが奇異の目でコチラを見ている。
な、なんて居心地が悪いんだ……
「何が違うんだ、何が気に入らないんだ!? 良いから、先ずはその剣をこちらに渡せ!! 君の様な人間を失うのは損失だ。必ず、俺が、我が国が責任を持つ。だから、今は俺を信じてその剣を渡せ!!」
何故か、ロックが人一倍真剣に俺の自殺を止めようとしてくれてる。本の数日前に会っただけなのに……
意味がわからん。
「ち、違うんだ!!」
「何が違うんだ、言ってみろ、話なら幾らでも聞くぞっ!?」
やはり、ロックが新味になって話を聞いてくれる。
でも、聞いて欲しい話の方向性が全く違う。
当のドッグに視線を送ると、思っても見ない方向に話が広がってしまった事に驚いたのかポカーンとしている。
オメー、マジぶっ殺すぞ!!
少しは、話を収束させる為に動けや!!
オメーが話をややこしくしたんだろうが、ダボこら!!
辺りの喧騒が徐々に大きくなっていく。
もうこれ以上は不味い。速く、迅速に事態を収拾させなくては……
俺は腹の底から大きな声で叫んだ、辺りの喧騒を切り裂く様に……
まるで、助けを呼ぶように……
「俺はッ!! 剣の手入れをしてただけなんですぅ!!」
その瞬間、辺りを沈黙が包み込んだ。
急激に場が冷え込むのがわかる。
なんか、俺がスベったみたいな雰囲気が流れる。
終わってる。
そして、おもむろに一人、また一人とその場を後にして行く。
徐々に群衆はまばらに成っていき、遂にその場に残っていたのは俺とドッグとロックだけになった……
「お、お、おうそうだったのか……」
ロックが申し訳なさそうに自らの後頭部を掻いた。
死にたい。
「す、すまない、アルル。ま、まさかこんな騒ぎになると……」
「バカ……」
俺の言葉に二人は同時に目を丸くした。
「バカバカバーーーーカ!!」
俺は剣を鞘に納めるとドッグに向けて投げつけた。
「うわ!! 何するんだ、あ危ないだろ!!」
「バーーカ!! バカバカバカッ!!」
そして、ロックには足元に落とした砥石を拾って思いっ切り投げつける。
「おっと、石だけにロックってか……」
ロックはちゃっかり、それをナイスキャッチしてみせた。
コノヤロー!!
「受け止めんなよ、バカ!! もう、二人とも知らない!!」
俺は一目散に駆け出し、自室へと走った。
多分、その俺の顔は大層真っ赤っ赤だった事だろう。
「ああ、マジで最悪だよ!!」




