◇59 停戦協定
「停戦協定の仲介を、是非とも白の師団にお頼みしたく参上しました」
俺の言葉と同時に、会議室が静かな熱気を帯びるのがわかった。
「ふむ、両国間での停戦。それが叶えば誠にめでたい事である。その上で、その停戦が叶う事を我々は強く願っている……」
“閣下”と呼ばれた老人。ブラック卿はそう口にした。
その瞬間、静かな熱気を放っていた会議室が、冷たく静まり返り、会議室に冷静さが戻って来た。
やはり、この会議室の中でも彼は重鎮の様だ……
「しかし、申し訳ない事に、今すぐに答えを出す事は困難を極める。しばしの間、時間を頂きたい。明朝、返事を致す……」
ブラック卿がそう口にすると、おもむろに扉を手で指した。
帰れと言う事だろうか……
「貴殿方の会議に、私は参加させては頂けないのですか?」
「残念ながら、退室願います……」
ここまでか……
交渉の余地も許されないか、出来る物なら“総帥”と直接話をしたかったが流石にそれは叶わないか……
ここで駄々をこねるのは余り得策ではないだろう。
強行策は後でも取れる、ならば……
「では、是非とも助力の程のお願いします。それでは明朝、出直して来ます」
致し方無いが、今は引き下がるしかあるまい。
俺は会議室の後にした。
「はぁ……」
大きな会議室の扉を背に溜め息を吐く。
全く、我ながら情けない物だ。
ほとほと、相手にされてないな……
それにしても、彼。ブラック卿がホワイト・ロックの“総帥”なのだろうか。
先の先まで会議を取り仕切っていたのは、間違いなくブラック卿だ。だが、果たしてあの老人が本当に“総帥”なのだろうか?
円卓は身分の上下をわからなくさせる為にあると言うが、こうなると“総帥”が何処にいるか、それをわからなくさせる為にあるのかも知れないな。
だとしたら、かなり厄介だな。
本当はトップと直接交渉に持ち込むつもりだったが、トップが誰かすらわからんか。
あの御老体も感情すらも中々読めなかったしな。もし“アレ”に上がいるなら、尻尾を掴ませる様な事はしないだろうな。
「なら、あの御老人と直接交渉するか?」
いや、恐らく、アレはトップではないな。
それじゃあカードとしては弱い。それにあの御老人と交渉して勝てる自信がないな。
アルルや、ドッグなら知っているか?
いや、恐らく知らないだろうな。
俺と幹部達のやり取りすら見せなかった程の組織だ。
情報を下に流しているとは到底思えないな。
そうして考えると、“白の師団”とは中々に不思議な組織だな。
アレで組織が成り立っているのが不可思議だな。
「はあ、まあ、成る様に成るか……」
ここは“白の師団”が正義の使者として通っている所を信用して待つしかないか。
それか、あの二人を利用して“白の師団”を巻き込んで、協定の場に引きずり出させるか。
いや、それはヤダな……
俺的に無しだな……
「はあ、はてさて、どうなる事やら……」




