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☆55 夢
あの頃を夢を見る。
生臭いニオイがする裏路地。
ボロボロの貫頭衣の様な物を纏って立っている俺。
そこで俺はどこに行けばいいのかと、回りをキョロキョロと見渡している。
ふと、通路の先を見ると建物と建物の合間から賑やかな街並が視界に映った。
何故だかそちらに誘われている様な気がした。
だけど、俺はその景色に背を向けた。
目線の先を見ると、生臭いニオイが更に強くなったように感じた。
不意に俺の後ろから、誰かの手が伸びて来た。
白くて暖かくて優しい手。
女性の様な細くしなやかなで、それでいて、何処か力強く男性的な心強さも感じる。
その手から俺の名前を呼ぶ声がする。
「アルル……」
そうだ、思い出した。
俺の名前はアルルだ。
そして、これは夢だ。
だけど、これは悪夢なのだろうか。
まだ物心ついて間もない過去の出来事。
自分の中に、前世の記憶が存在する事にやっと気づき始めた切っ掛けになった出来事。
だけど、これは昔から俺が見ていた悪夢とは少し……
少しだけ……




