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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-新たなる旅立ち-
54/95

★53 人質

「以外となんとかなるもんだなー、緊張したぜー……」


 そう言うと、アルルらほっと胸を撫で下ろした。

 そして、技とらしく胸に手を当てて、大きく息を吐いて見せる。


 いや、そんな次元の話ではない。

 あまりの出来事に言葉を失わざる負えない。


 彼女はあれ程に強かったのか!?


 いや、“黒の師団”の隊長を下し、今は彼女自身も隊長となったのだ。弱い訳はない。

 だが、それにしても想像していた範疇を大きく越えている。


「す、凄いじゃないか、アルル!!」


 余りの出来事にそれしか感想が出てこない。

 本来ならば、初の戦闘に、初の死戦。その恐怖や、トラウマなどが先に来るのだろうが、僕にとっては、彼女の姿の方がよりセンセーショナルに写ったのだろう。

 そう言った類いの感情は、何処かへと飛んでいってしまった。


「大したことねーよ、術式が良いだけだ……」


 彼女はそう言うと恥ずかしそうに目線を反らした。

 そして、石柱に縛りつけられた男の元に行くと、膝まずいて彼の縄をおまむろに解き始めた。


「いや、だが。その術式は君が産み出した物だろう。なら、その凄さは君の凄さだろうに……」

「……いえ、俺は全然凄くねーよ」


 どうして、彼女はそこまで謙遜するのだろうか。そこまで来ると謙遜を通り越して、卑下している様にすら見える。


 いや、恐らく卑下しているのだろう、自らを……


「ほら、ほどけたぜ。大丈夫か?」


 男は気を失っているのか、重たげな呻き声を挙げるだけだった。


「ドッグ、患部を冷やすから氷を出してくれ」

「ああ、わかった……」


 僕は幾つかの氷の塊を出すと、彼女に手渡した。

 すると、彼女は自分のコートのポケットを引きちぎると、それで氷嚢を作り、男の痣のある箇所に当てた。


「ドッグ、持っててくれ」

「あ、ああ……」


 僕がアルルと役割を変わると、彼女は再びポケットを引きちぎり氷嚢を作った。


「よし、これでよし」


 手際がかなりいい。

 

 正直、ホワイト・ロックでの授業はロクに受けていなかった様に見えるが、僕なんかより何倍も動けている。


 いや、まずホワイト・ロックではこんな事を授業では受けないな。

 これは彼女がスラムに居た時の経験なのだろうか……


「いつつ……」


 その時、男が苦悶の表情を浮かべながら目を覚ました。


「アルル、彼が目を覚ましたぞ」

「お、かなり痛め付けられてたのに、もう目を覚ますのか。頑丈な奴だな、それともケッコー鍛えてるのか?」


 そう言うと、アルルは嬉しそうな表情を浮かべると、氷嚢を彼の頭に乗せた。

 

 男は乗せられた氷嚢を取ると、僕達を見て一度頭を下げ、氷嚢を目の辺りに押し付けた。


「大丈夫か? 喋れっか? 名前は言えっか?」

「はは、医官の様な事を聞く嬢ちゃんだな。まあ、恐らく、大丈夫だ。俺の名前はロックだ。ちゃんと喋れてるよな?」

「おう、大丈夫そうだ、よかった」


 アルルがそう言うと、ロックと名乗った男は僅かに笑った。

 しかし、次の瞬間、彼は勢い良く立ち上がると叫び声にも似た声を上げた。


「大丈夫じゃねぇ!! もう一人だ、もう一人いるんだった!!」


 その言葉に僕は目を丸くした。

 隣を見ると、アルルも目を丸くしている。

 一体、どうしたと言うんだ?


 男は急いで近くの剣を拾いあげると、駆け出した。

 

「あ! 行きなり動くと危ねーかも知れないぞ!」


 アルルの言葉を聞かずに男は、洞窟の奥の方へと消えて行った。

 それと同時に、獣の様な叫び声が洞窟中に響く。


 すると、先程の男が急いでこちらに戻ってきた。

 何をやってるんだ、この男は?


「不味い不味い!! 起きちまった!!」

「一体、君はなんないんだい。どうしたと言うんだ?」

「取り敢えず、落ち着け落ち着け」


 僕とアルルが同時に諭す。


 その時、ズシンズシンと大きな何かが歩く音が響いた。まるで地震にも、地響きとも取れる不思議な音と響きだ。

 一体、なんだこの振動は……


「コイツだ、この足音の正体が目覚めちまったんだ。もうそこまで来てるぞ、構えろ」


 彼、ロックが慌てながらも剣を構えた。

 突然の展開に僕は動揺を隠せないでいた。


「なんなんだい、正体って!?」

「と、兎に角、戦闘準備だ!! 皆、覚悟の準備は万端か!? ん?」


 なんだか、アルルが一番覚悟も準備も万端ではなさそうだ。

 その時、奥の暗闇から何かの影がコチラを覗いてきた。その全容はわからないが、兎に角巨大な何かがコチラを覗いている、それだけは理解出来たら。


「アデ? ミンナ、ドウシタァ? オレァ、ハラヘッタゾォ、メシ、クワセテクレェ?」


 たどたどしい口調と共に、奥の暗闇から巨躯が覗く。

 その巨体に思わず言葉を失ってしまう。


「コイツはハーフオーガだ……」

 

 馬鹿なハーフオーガだと、何故そんな物がこんな所に居るんだ!?


「おい、ハーフオーガって、なんだ!?」


 アルルが疑問の声を挙げる。


 それは授業で説明されたはずなんだがな。


 ハーフオーガ。

 端的に言ってしまえば、人間とオーガの交雑種だ。


 だが、その種類も段階も多種多様であり。普通と人間として接して問題ない存在もいる。

 しかし、その真逆の存在として、オーガとしての野性と人間としての知性が、良くない方向に合わさってしまった、酷く不安定で危険な存在もいる。


 果たして、彼はどっちなんだ!?


「アデ!? ミンナ!? ドウシタンダ、ミンナ!!」


 彼は周りに転がっている仲間達を見て酷く動揺しているみたいだ。


「ドウシタンダァ!!」


 不意に、彼の近くに転がっている死体を拾うと、その動揺は更に激しい物になった。


「アァ、ア、ア、ア。ミ、ミミ、ミンナァアナァアナア!! ァアナァアナア!!!!」


 その瞬間、先程まで大事そうに持っていた盗賊の遺体を握り潰すと、そのままの勢いで地面に叩き付けた。


 明らかに常軌を逸した行動だ!!

 不味いぞ、これは完全に後者だ!!

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