★50 暗闇
やっと暗闇に目が慣れて来た……
鼻をつくカビ臭さ、湿った空気特有の重く垂れるような空気感は相変わらずだが、視野が確保された分だけ、得体の知れなさは大分薄れて楽になってきた。
「そろそろ、目は慣れたか?」
彼女の姿は良く見える。“白の師団”の特有の純白の服がこの闇には良く見える。
果たして、これは戦略的な優位性が有るのだろうか。
それこそ、こう言った場合は黒にした方が良いのではないか?
いや、今はそんな事を考えている場合ではないか……
「もう大丈夫だ、ありがとうアルル」
「よし」
すると、彼女は僕の手を離すし、ゆっくりと歩き出した。
慣れた目で辺りを見渡すと、なるほど、人が使っていた形跡がある。
天井や床が削り取られて整地されている。足元に転がっている筈の岩も明らかに少ない。
これは少なくとも“何か”は居るだろう……
「ドッグ、あれ……」
不意に彼女が呟く。
彼女は洞窟の先を指差している。その指の先には明かりがあった。
通路の先、何処か大きな空洞に繋がっているであろう、そこから光が漏れているのだ。
無論、それはある事実を示していた。
「誰か居る様だね……」
「ああ、もしかしたら戦闘になるかもしれねー。ドッグ、オメーは初めての実戦だよな。覚悟は良いか?」
彼女が僕に視線を向ける。
脈が跳ね上がるのがわかる。心臓の拍動が高鳴る。呼吸も僅かに速まるのが自分でもわかる。
正直言ってしまえば、今の僕の状況は「口から心臓が飛び出しそう」と言った所だ……
だが恐怖は無い……
彼女と共に戦える事が、これ程に僕を昂らせるとは、自分でも驚いている。
恐怖はなく、緊張と、高揚感が僕を支配して行くのがわかる。
果たして、僕がどれだけ役に立てるだろうか……
だけど、それでも、彼女を一人で戦場に立たせる事だけは絶対にしない。
彼女と共に戦える、それだけの事実で僕は戦える。
「ああ、大丈夫だ……」
彼女は頷くと、剣を抜いた。
その刀身が闇の中でも蒼白く光る。
美しい色だ、彼女の魔力と良く似ている。
透き通る様な蒼の刀身。杖の代わりともなる彼女の剣。
果たして“それ”が彼女の術式にどう作用するのか。
彼女の術式も気になるが、それも気になる。
「先ずは、ギリギリまで近づいて様子を見る……」
「ああ、わかった……」
僕の返答を聞くと、彼女はゆっくりゆっくりと明かりに向かって歩き出した。
その先に有る物を見定める為に……




