★49 朝
朝焼けに染まった空を眺めながら、僕達は旅の仕度をしていた。
程よい湿気と、夜が残した寒さが辺りに立ち込め、身が引き締まる様な感覚を覚える。
昨日と、今日とで痛い程に理解する事が出来たできた。
アルル。彼女は凄まじい程にサバイバル能力が高い。と言う事だ。
まあ、幼少期をスラムで過ごしていたんだ。そこら辺の能力は図抜けていて当然だろう。
「さー、準備が出来たら。黒の残党狩り、あるいは山賊狩りに行こー!」
「ああ、そうだな。だが当ては無いんだろう?」
僕がそう口にすると、彼女は自慢気な笑みをこちらに向けてきた。
驚いた。どうや、宛があるらしい。
流石だ、昨日の今日ですでに何か打開策を思い付いたとは、尽く僕の想像を越えていく。
「実は昨日。ドッグがブチ切れた団員さんが、話してくれたんだよ」
「おお、これは驚いた。口を割らしたのか、一体どんな手を使ったんだ?」
僕の言葉に、アルルが気不味そうにこちらを見た。
「いや、普通にドッグの剣幕にビックリしたらしく、全部話してくれたぞ……」
……さ、流石は僕だ。尽く自分の想像を越えていく。
「この先に一キロ程歩いた所に洞窟があって。そこに山賊だか黒の残党だか、わからない集団が住み着いているみてーなんだ。取り敢えず、そこを叩こう。残党なら、何か手がかが手に入るかもしれねーからな」
そう言うと、彼女は二本の剣の腰にぶら下げると歩き出した……
僕も、旅道具の入ったリュックを背負うと彼女の後を着いて歩き出す。
暫くの間、行軍が行われる。
たった二人の行間である。
お互いにお互いが微妙な距離感を保ちながら、歩を進めて行く。
こうして体幹すると良くわかるが、アルルは以外な程に健脚だ。当たり前の様に、森の木の根が掛かる不安定な足場を進んでいく。
まるで、そう言った道の歩き方を熟知しているかの様だ。
これも、スラム育ちの成せる技なのだろうか?
そんなことを思いながら、慣れない足場に四苦八苦し進む。
やがて、目的となっているであろう洞窟が目に入った。
「どうやらここみてーだな」
「ああ、その様だね」
まるで地面がその口を開き、地底深くへと誘っているかの様だ。
ほんのりと湿ったカビ臭い空気が鼻に触れる。
明確に、ここから先が別世界である事を空気で表している。
「さて、じゃー行きますか……」
「ああ……」
彼女はそんな雰囲気ものともせずに、洞窟に向けて歩き出した。
その不気味に開いた口の中へ、自らは入って行くように……
僕は、暗闇を照らす為、呪文を口にする。
人指し指を立て、魔力を練り上げる。
「光の章、第一章……」
「ドッグ、ストップ!!」
彼女が僕の指を掴み、詠唱を止めた。
「な、なんだい、アルル?」
「中に残党なり、山賊なりが居るんだ。気づかれたくな、明かりは出さないでくれ」
「だ、だけど、君。灯りが無くてはまともに歩けないだろう」
そう言うと、彼女は自分の目を指差して見せた。
ほんのりと緑色の混じった綺麗な瞳が、僕を写す。
「俺はスラム出身だ。夜目が効く。目が慣れるまでは俺に着いて来い」
そう言うと、彼女は僕の手を取り、そのまま僕を洞窟の中へと誘う様に歩き出した。
僕は彼女の白い手に引かれて闇の中へと踏み入れる。
彼女の手に誘われるように……




