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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-新たなる旅立ち-
49/95

★48 目覚め

 突然、意識が覚醒した。


「はっ!! こ、ここは!!」


 見ると、夜空には満点の星が広がっていた。

 近くでは火がパチパチと燃える音が耳に届く。

 それと同じくして、夜空の肌寒さに身体を震わせる。


 誰かが掛けてくれたのだろう、毛布が僕の身体に掛かってい。


「目が覚めたかよ、ドッグ」


 上体を起こすと、そこにはアルルがいた。


 どうやら、彼女が僕を気絶させたらしい。

 恐らく、彼女の雷魔術の仕業だろう。


 それにしても良かった。僕の余りの暴走っぷりに、呆れて置いていかれたかと思った。


「いやー、まさか。ドッグがあんなに喧嘩っぱやいとは、夢にも思わなかったせー」


 彼女が満面の笑みで笑う。

 その表情に思わず釘付けになる。


 ああ、そうだ……

 その顔だ……


 久しく見ていなかった気がする、彼女の笑顔。

 ここ最近はずっと針積めた様な表情をしていた。笑ってもどこか物憂げ表情をしていだが、やっと昔の柔らかい表情を見せてくれた。


 その様に、少しだけ昔に戻れた様な感覚に襲われる。


「ほい、魚」


 そう言うと、彼女はこちらに何かを寄越してきた。

 

「な、なんだこれは? これは魚? しかも、丸ごと?」


 串に刺さった、魚だ……

 ほんのり芳ばしい香りがする……


 こ、これは魚と言うには余りにも魚ではないか? 

 もっとこう、切ったりとか、開いたりとかしないのか? 

 ど、どうやって食べれば良いんだ? 

 骨は骨はどうすればいいんだ?


 思わず、渡された魚をまんじりと眺めてしまう。


「ああ、ドッグはわかんねーか。流石はお坊っちゃんだ」


 すると、彼女は自分の待っていた魚を口に運ぶと、そのままかぶり付いて見せた。


「!!!!!」


 そ、そんな事をしては骨が、骨が口の中で凄い事になってしまうではないかッ!!


「もぐもぐもぐ。川魚は皮も骨も食べられるし、うめーんだ。特にアユは絶品です。ここでも、アユって呼ぶのかは知らねーがな」


 そ、そんな馬鹿な。骨まで食べられるだと。そ、それは君が特別なだけではないのか?


 思わず、目の前に出された魚に目をやる。

 あ、目が合った!!

 気持ち悪い!!


 こ、これを食べるのか!?

 いや、だがアルルは実際に食べている。


 見ると、はぐはぐと彼女の小さい口で魚を丸かじりしている。

 そして、時たま「オレサマ オマエ マルカジリ」と呟いてクスクス笑っている。

 

 なんだこれは!? 

 これは、夢か!?


「食べないなら、俺が食べちまうぞー。それに、これから野宿もするだろーから。こう言うの食べれないともたねーぞ♪」


 彼女は上機嫌な様子で魚をはぐはぐと食べている。

 上がる湯気はいい香りを撒き散らし。白い魚の身は美味しそうに彼女の口へと流れていく。


 その様に思わず腹が鳴りそうになる。


「ぐぅぅ~~」


 実際に腹が鳴った。


 彼女の方を見ると、どこか、いたずらっ子の様にニヤニヤとこちらを見て笑っている。

 余程、僕の様子がおかしいらしい。


 くっ、もしや僕は彼女にいたずらされているのかもしれない。

 

 もう一度、彼女を見る。


 やはり、いたずらっ子の様にニヤニヤとこちらを見て笑っている。


 くっ、彼女の笑顔が眩しい。

 まさか、こんなにも速く、彼女の屈託の無い笑みが見れるとは……


 ええい、ままよ!! 

 僕はやるぞッ!!


「おっ!! 食べるかっ!!」


 串を握る手に力を込めると、口元に勢い良く持っていく。

 芳ばしい香りが鼻をつき、その香りに再び腹が鳴りそうになる。


 もういい、今の彼女に騙されているのなら、僕は何処までも何度でも騙されよう。


 彼女の屈託の無い笑顔に乾杯!!


「はぐっ!! はぐはぐ!!」


 はうっ!! こ、これは!!


「う、旨過ぎる!!」


 す、凄い!! 

 なんて、なんて旨いんだ!!


「皮はパリパリになっていて皮特有の気持ち悪い歯触りもなく、魚特有の臭みもない。いや、それどころか、この心地の良いパリパリとした食感と、その奥にあるフワフワの身が絶妙な歯触りを産み出している。それでいて、香りも塩が効いているのか。いや、これは炭独特の芳香か? それにより臭みが全く無い。むしろ、良い香りすらする。ああ、それが口の中でも広がり旨味を口内鼻腔共に満たしている!! 素晴らしい!! 素晴らしいぞ!! こ、これは一体、どんな調理をしたんだ!! 一体、どんな調味料を使ったんだ!! ま、まさか、同量の金と同じ価値が有ると言われる胡しょ……」


「……ただ、塩を振って焼いただけだよ」


 え!? うそぉん!?


 僕の驚愕する表情を見て、彼女はもう限界だと言わんばかりに腹を抱えて笑い出した。


「アハハハハハ!! 家名持ちだから、お坊ちゃんだとは思ってが、おめーは全然違う方向性で面白い反応するな!! アハハハハハ!!」

「はは、そ、そうなのか?」


 ううむ……

 いまいち、彼女がなんで笑っているかわからないが、まあ良いだろう、

 この魚は旨いし、彼女も笑ってくれたし、それで一先ずは良しとするか……


 その時、不意に夜風が頬を撫でた。


 風は焚き火に僅かに当てられたのか、ほんのりと暖かみを感じる。


 大変、心地が良い……

 夜風と焚き火に当たりながら、食べる魚はなんと上手い事か。そして、瞳に写る満点の星空に、アルルの屈託の無い満面の笑み。


 ああ、なんと言う馳走だろうか……


 僕は魚をもう一度かじりると、その味に舌鼓を打った。

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