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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-その手の感触-
42/95

★41 ドッグとアルル

 彼女と初めて会ったのは、“白の師団”の育児施設だった。

 

 そこは育児施設とは言う物の、その実態は魔術師としての才を持つ子供達が送られる塾の様な物だった。

 

 彼女は魔術の才を見込まれ。僕はバスカヴィル家の嫡男として、そこに送り込まれた。

 最低限の魔術の知識。魔力の操作。基礎の基礎をそこで幼いながら教え込まれる。


 ただ、僕達はその中でも異質で浮いた存在だった。


 彼女はスラム産まれ、孤児院育ちの少女。

 対して、僕は家名持ちのお坊ちゃん。

 その有り様は対照的であれど、同じ浮いた存在であった。


 彼女はそこの先生達から、露骨に爪弾きにされており。

 僕は家名のせいもあって疎ましがられていた。


 元々、魔術師の家同士の仲は極端に悪い。お互いにお互いの術式や能力、功績や手柄を横取りしようと皆が躍起になっている。

 そんな中、他人の家の嫡男を、誠実に教育しようとする先生は居なかった。


 唯一、誠心誠意対応してくれたのがパウル師範であり、後パウル師範は僕達を弟子に取ってくれた。


 しかし、最初の扱いは酷い物であり。その様な扱いを受けていると、それは子供達にまで伝播した。

 子供と言うのは恐ろしい物で、大人の行動や言動を見て、自分達の態度を決めるものだ。


 故に、アルルと僕は虐めてもいい存在なのだと、子供達が認識するのに時間は掛からなかった。


 それから、苦痛の日々が始まった。

 日に日に虐めはエスカレートしていき、施設に行くのも嫌になった時期もあった。


 彼女はと言うと、別段問題はなかった。

 これは凄いことだ……


 元々、人を一人殺してしまう程の魔力を有していた彼女は、専ら施設での訓練を魔力の制御に費やし、幼い身空で基礎魔術と、初級魔術を既に修めていたのだ。


 そこまでの実力を持っていたら、虐めっ子なんて話にならない。

 無論、彼女は虐めっ子全員、蹴散らして見せた……


 それから彼女への虐めは無くなった。


 しかし、虐めっ子らのストレスは捌け口を失い。それは僕に向かった。そして、虐めは急速にエスカレートとして行った。


 ただ、それこそが一番、彼女の逆鱗に触れる事になった。


 元々、曲がった事が嫌いだった彼女は、僕への虐めを目の当たりにして、虐めっ子全員を次こそ完膚無きまでに叩き潰して見せたのだ。


 その日から、彼女の目の前では虐められる事は無くなった。


 それからと言う物、僕は虐めに会わない為に、彼女にくっついて歩く様になった。

 彼女はそれから、僕の事を“ドッグ”と呼ぶ様になった。


 彼女曰く、「子犬みたいで可愛い」からだそうだ……


 そんな関係は、僕の背丈が彼女を追い越すまで続いた。

 

 その頃には家名持ちである事が何を意味するのか、他の子供達も理解した様で、僕の事を虐め様等と考える輩は居なくなっていた。


 遂に僕は自由になった。

 そんな僕に、ある考えが頭に浮かんだ。


 僕は彼女を利用していたのではないかと。彼女を利用し自分が虐められない様にしていたのではないかと……


 それは酷く惨めで、情けない事の様に思えた。


 同時に、それを彼女が知ったら、僕は嫌われてしまうのではないかとも思えた。


 失望されるのではないかと、不安で仕方がなかった……

 そして、彼女への罪悪感で押し潰されそうになった……


 僕はそれに堪え切れず、彼女に懺悔した。

 自分に都合良く、彼女を利用していた事を……


 しかし、彼女の答えは目を見張る物だった……


「人間なんてそんなもんだ。お互いに利用し合って生きてるんだ」


 そう言うと、彼女は笑った。


 その年相応の笑顔はとても可愛らしく、その無邪気な微笑みは僕の心を掴むには十分過ぎる物だった。


 そして、彼女はこうも付け加えた……


「だがなドッグ、オメーは“利用してる”って言うがな。俺はそれを“支え合ってる”って言うんだ。そんで支えて貰った奴は、いつか支えてくれた奴を支え返してやれば良いんだ……」


 脱帽だった。


 なんて、真っ直ぐで力強くて優しい哲学を待っているのだろうかと、幼い僕ですら感激した……


 彼女の高潔さに心を奪われた……


「なっ? そうすれば“利用してる”って訳じゃなくなるだろ? だから、次はオメーが俺の困った時に助けてくれりゃ良いんだよ!」


 そうだ、思い出した。

 脳裏に、その時の彼女の笑顔が思い浮かぶ。


 僕は、彼女に苦しい時を支えて貰った。

 だから、次は僕の番なんだ。


 彼女が苦しんでる今、僕が彼女の支えになるんだ。


 もう迷いはない。

 もう恐れはない。


 覚悟は決まった。


 僕は彼女に謝りに行く。

 そして、もう一度、彼女の隣に立ち、彼女を支える。

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