★38 手に残る彼女の感触
自分の手を見る。
その手には、今でも彼女を殴った感触が残っている。
「僕は何をやってるんだ」
思わず、拳で自分の額を叩く。
つい、カッとなって手が出てしまったなんて……
なんて都合のいい言い訳なんだ。
一体、どこの誰が最初に言い始めたんだ。
もっとしっかりと話せばよかった。
何故、彼女がそこまで術式にこだわるのか聞けばよかった。
なのに、僕は感情の赴くまま暴力を振るってしまった。
最低だ、最低の男だ。
それ以外の言葉が見当たらない。
そして、なんて意気地の無い男なんだ、僕は……
出て行け、と言われり言われるがままに外に出て呆然と立ち尽くしてしまっている。
今すぐ、振り返り。彼女の部屋へとお戻り、彼女に謝るべきだ。
なのに、それなのに、その勇気が出ない。やるべきことはわかってるのに、その行動を起こせない。
ああ、そうだ。許して貰えないのが恐いんだ、恐ろしくて堪らないんだ。
二度と元の関係には戻れない事実が、悲しくて恐ろしくて堪らないんだ。
全て自分が悪いと言うのに……
呆然と立ち尽くしていと、ある人物が僕に声を掛けてきた。
「おや、ハウンズではないか。こんな所で何をしているんだね」
そこにはパウル師範が立っていた。
そして、その優しげな瞳が僕の事を見つめていた。
醜く、情けない僕を……
「パウル師範…… 僕は…… 僕は……」
僕の様子を見た師範が一言優しく「場所を変えようか」とだけ言ってくれた。
僕は情けなくも、その言葉に甘える毎にした。




