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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-その手の感触-
38/95

☆37 不和

「“術式”は開示しねー」


 そう口にした瞬間、ドッグの顔から笑みが消えた。


「な、何を言ってるんだ君は? それはつまり君が“黒の師団”の本部を探しに行くと言うことなんだぞ!?」


 そんなのわかってる。

 俺だって、そこまで馬鹿じゃない。


「みすみす死に行く様な物だぞ!?」


 それでも、俺は“術式”は開示しない。

 絶対に開示しない。


「死なずとも、殆ど追放と変わらないんだぞ!? 自分の言っている事がわかっているのか!?」


 無論、わかっているさ。

 だがな、そんな言葉がをするぐらいなら、俺はこの“術式”を持って地獄に行く。

 この世界に地獄を産み出す位なら、自分がこの“術式”を持って地獄に行く。

 丁度いいだろ。この“術式”を産み出した張本人にはピッタリの責任の取り方じゃないか。


 そうだ、それがいい。


 しばらくの沈黙の後、それを破るかの様に声が響いた。


「ふざけるな!! 君は自分の命より“術式”が大事なのか!!」


 怒りの声が俺に降り注ぐ。


 だかよ、それは話の論点がずれてる。俺に取ちゃー、“術式”なんてどうでもいい。

 開示して、この戦場から一抜け出来るなら喜んでする。


 俺はそう言う人間だよ……

 薄っぺらい、女さ……


 だけどな。俺の“術式”の所為で戦場に行くはずでなかった人が、死ぬはずでなかった人が、そんな人達が殺し殺されるなんて絶対に我慢ならねー。


 この“術式”は俺が大切な人達を守る為に産み出した“術式”なんだ、それで大切な人達が死ぬなんて絶対にあってはならねー。


 そうなったら俺は俺を許せねー。

 流石の俺も、そこまで落ちぶれちゃいねーんだよ。


 だから、絶対にこの“術式”は開示する訳には行かねー。


 そう、メイちゃんみてーに、弱い者を戦場に立たせない為に、この“術式”を開示する訳には絶対に行かない。


 それなのに……


 なのに、ドッグは「俺が命よりも術式が大事にしてる」と抜かす。


 それが俺には我慢ならねー。

 思わず、ベッドから起き上がる。

 

「ふざけねーよ。この“術式”を開示するつもりはねー。この“術式”を開示しなければ地獄に落ちると言うなら、俺は“術式”を持って喜んで地獄に言ってやるよ!」


 その瞬間、頬に弾ける様な痛みが走った。

 ドッグの平手打ちが俺の頬を弾いたのだ。


「君に取って“術式”がどれ程の物かわからないが、本当にそれは自分の命よりも大事な物なのか!? もう一度、自分の胸に聞いてみろ!!」

 

 ああ、やっぱり……


 男と言う生き物は最低だ。

 自分の前世が男であるが故に、なんだかウンザリする。

 都合が悪くなるとすぐに手を挙げ、こちらの言い分もろくに聞かない。それでいて、自分の都合ばかり押し付ける。


 そう言う、ろくでもない男は実際に少数だがいる。


 彼の手が、あの日路地裏の暗がりから出てきた手と重なった。


 ああ、最低だよ、見損なった、見損なったよ……

 少しだけ、本の少しだけ、信じても良いかなと思ってたんだがな……


 もうダメだ、信じられない……


「……出て行ってくれ」


 俺の言葉に、ドッグが少し狼狽える……

 だが、そんなの関係ない……

 もう、顔も見たくねーんだよ……


 はやく、出ていけよ……


「出ていけよッ!!」


 女の叫び声の様な物がこだまする。

 いや、正しく、これは女の叫び声だ。


 俺の叫び声だ……

 

 俺の声に驚いたのか、彼は明らかに狼狽えると、逃げる様にして俺の部屋から出て行った。


「クソッ!! クソクソクソッ!!」


 二度と…… 

 二度と男なんて信用するもんか……

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