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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-その手の感触-
37/95

☆36 “黒の師団”

 ドッグの話によると、“黒の師団”の本部は今まで多くの白の団員達が見付けだそうと試みたが、この数百年の間、その手掛かりすら見付けることが叶わなかったらしい。


 しかも、多くの団員が捜索の途中に不慮の死を遂げているらしく。間違いなく、黒の団員達に襲撃されたのがうかがえる。


 つまり、これは今まで多くの団員達が犠牲になった任務と言う事だ。


 積もりに積もる怨嗟は凄まじい、その怨嗟のせいも合間って、黒と白の闘争が数百年に渡る物となってしまった原因の一つでもあるらしい。


 そんな、何百年と先人達が探して、見つけ出せなかった物を見つけるのが、俺の初任務らしい。


 もし、この任務を受ければ、まず間違いなく襲撃に会い、殺されてしまうだろう。


 いや、いやいやいや……

 

「無茶言ってくれるぜ……」


 思わずそう口に出てしまう。

 ドッグも難しい顔をしながら頷いた。


「ああ、無理だな」


 暫しの間、お互いの間で重い重い沈黙が訪れる。

 冷静に考えると、無理なんだから無理でよくね? 

 ぶっちゃけ、昇進とか興味ないし。

 なにより、死にたくはないしな……


「無理だって、言うしかねーか……」


 ドッグがこちらを見て一度頷く。

 やはり、そうだよなー。

 ドッグもそう言うなら、この選択は間違いないのだろう。


 仕方ない、昇進は見送りだな。


 別に成り上がるつもりなんてさらさらねーから、どうでもいいけどよ。出来なかったら出来なかったで悲しい物がある。


 しかし、ドッグの次の一言で、俺の考えを一変した。

 

「なら、“術式”を開示するしかないか……」


 思わず瞳孔が開く様な、そんな感覚がした。

 身体中の血が冷える様な、心臓の拍動が跳ね上がる様な、そんな感覚がした……


 おいおいおい。な、なんでそうなるんだよ。

 全然、意味がわかんねぇよ……

 

「な、なんだよそれ。話が飛躍してねーか?」


 そうだ、あまりにも飛躍し過ぎだ。

 出来ない事は出来ないので仕方がない。

 なら、それで昇進が白紙になって、そこで話は終わりじゃねーのか? 


 なんで、“術式”の開示にまで話が飛躍するんだ?


「上は君の査問会での態度を見て疑念を抱いてる。“白の師団”に仇なす者であると思ってるらしい」


 そんな戯れ言を……

 よくも戦場で、自らの身体を張って戦った、俺に対して、そんな言葉が言えるな……


 腹の底から怒りの感情がふつふつと沸いてくるのがわかる。


 先程までの戸惑いの感情が全てひっくり返り帰るのがわかる。

 そして、憤怒の感情が沸き上がって来るのがわかる。


 そんな俺を他所に、ドッグは尚も言葉を続けた。

 

「彼等は忠義を示す為、信用に足りる物を要求してる。普通なら土地だったり、調度品だったりとちょっとした個有財産を納めたりするんだが。君にはそう言う物がないからな。必然的に知的財産である“術式”の開示になる」


 絶対にあり得ねーな……


 それなら“黒の師団”に特攻でもして、死んだ方がマシだ。

 俺の誇り、俺の魂に、俺の命に掛けて。術式の開示なんて出来ない。

 出来てたまるもんかよ……

 

 俺の様子を知ってか知らずか、ドッグが尚も言葉を続けている。


「だが、こちらは悪い条件じゃない。破格と言ってもいい。家名も与え、“白の師団”から個人的な土地と屋敷。十分な謝礼金も与えると言っている。これ程の額なら師団を抜けて研究に専念したってお釣りが来るぞ」


 嬉しそうな表情で俺を見る。

 

 にこやかに、爽やかな笑顔で、微笑みかけて来る。

 ドッグ。お前、なんでそんな顔が出来るんだ?


 お前は俺の考えが……

 俺の思いが、欠片もわかんねーのかよ……


 ガッカリさせねーでくれよ、ドッグ。

 それじゃあ、それじゃあ駄目だって、わかんねーのかよ……


「“術式”は開示しねー」


 そう口にした瞬間、ドッグの顔から笑みが消えた。

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