☆35 突然の昇格
「ああん!? 俺が隊長だって!?」
余りの衝撃に、ベッドから飛び起きると、パジャマ姿のまま叫び声をあげていた。
それと同時に身体中に稲妻の様に痛みが走った。
「あいたたた……」
思わず声が漏れる。
それと同時に肩と腰を押さえた。
まったく、昨日まではそれ程でもなかったんだがな。
数日立ってから身体中が痛いのなんのって。
筋肉痛が後から来るって、お年寄りじゃないんだからよ……
もう腰も痛いし、剣を持っていた方の肩も痛いし。なんなら骨にヒビが入ってるんじゃねーかと思う……
そんな様子を見ていたドッグが、俺をたしなめる。
「アルル。君は前回の戦いでかなり無理をして、身体中傷めてるんだ。取り敢えずもう少しは大人しくするといい」
やんわりと俺をベッドに寝かし付けると、そのまま布団を直し、こちらを見下ろしながら語り掛けて来た。
「上も君の状態を見て休暇を伸ばしてくれるはずだ、今はゆっくり休むといいだろう」
どうやら、俺の身体は現在そう言う状態らしい。
最初はあんまり問題なかったんだがな……
やっぱり、女の身体と言うのは、少々問題があるか……
まあ、少し鍛えてるとはいえ。椅子に座ってばかりで、身体もろくに動かさない魔術師だからな。
それが、いきなり戦士と同レベルの動きをしたんだ、こうなるのも無理もない。
むしろ、これで済んでよかったのかもな……
今にして思うと、下手したら戦ってる最中に肩とか外れても可笑しくなかった。
なんなら、腰もどうにかなって取れてたろう、ブリン!とか言いながら。
そしたら、間違いなく、死んでただろうな……
これからはもっと本格的に身体を鍛えなければならないな……
いやいや、それよりだ……
「それより、本当に俺が隊長になるのかよ?」
その言葉にドッグが静かに頷く。
どうやら、嘘ではないらしい。
となると、候補生から団員、団員からの副隊長からの隊長だから、三階級ブッ飛んでの昇進になるな。
大丈夫なのか、それ?
実は殉職してました、とかないよね?
俺、生きてるよな?
「うーん、俺は査問会で御歴々に向かって、かなり喧嘩を吹っ掛けたんだがな。こう言う対応をされると何だか素直に喜べねーな。なにか裏があるとしか思えねーな」
ドッグが頷くとこちらに視線を向けた。
その視線は僅かに曇っている様に見える。
恐らく、それは裏があると言う事なのだろう。
それなら、この人事にも納得が行く。そこそこの地位を与えて黙らし地方なり辺境に飛ばす、と言った所だろうか?
「アルル。今回、君の昇進を推したのは三人の師団長なんだ……」
ドッグが、なにやら一人でに喋り出した。
不味い、フカフカのベッドが気持ち良くて、眠くなって来た。
もうずっと休んでたい。
「一人目が魔元帥サルバザール・ガルバデイアス。二人目が剣聖レイド・バスタード。そして、三人目が舞姫シオンの三人だ。査問会での君の態度を見て、隊長に推薦したらしい。君は一体査問会で何をしたんだ?」
思わず苦笑いが漏れちまう。
そんな御歴々が俺を推薦したんですか……
世の中、酔狂な人もいるもんですなー……
「何をしたって、そりゃ喧嘩を吹っ掛けた感じだな。ありゃ……」
しかも、勝手に退室しちゃったし。
ああ、流石は女の子。
枕からイイニオイがするなぁ。
自分のにおいなのにイイニオイだ。
いや、それよりだ……
魔元帥であるサルバザール・ガルバデイアス様はわかる。
自分達魔術師の完成形みたいな人だからな。それに査問会でも、何度か受け答えしたしな。
だけど、他の二人は全く知らない、顔も知らないし、あの場にいたのも知らなかった。
一体、どこのどちらさんだ?
もしかして、知らぬ間に失礼な事しちゃったかな。それとも、俺の態度に良い意味で思う所があったのか?
いや、そんな事あるか?
見ると、ドッグが呆れた果てた様に項垂れていた。
何故、そんなに項垂れるのかな?
いや、そりゃ項垂れますか……
すると、ドッグが重々しげに口を開いた。
「そうか…… だから、他の査問委員の方達からは反対意見が出てるのか」
自分自身でそりゃそうだろうなと思う。
思わず頷いてしまう。
俺の様子を見て、ドッグが眉を潜めながら睨み付けた。
へへへ、そんな睨まないでくれよ~
俺達、友達だろ~
「呑気に頷いてる場合ではないぞ。これはかなり切羽詰まってる状況だ。上は君に任務を与え、その任務の出来次第で今後の扱いを決めるつもりらしい」
なんだそれは、任務の出来?
出来高制なの? 白の師団って?
使えそうなら使うし。使えなそうならポイするって事か?
「どうやら、委員会は君を隊長にしたくないらしい。だが、師団長の三人が君を推してるから、それを無下にも出来ないらしい」
なんだか、偉い人達も大変そうだな。
「だから、取り敢えず機会は与えた、と言う体を取ろうとしているのだろう。最終的には、何かしらケチをつけて、君の昇進を白紙にするつもりだ」
ああ、やっぱりわからないや。
偉い人の考えることは……
委員会の人が、そんなに躍起になる程の存在でもないだろう俺は……
師団長の面々は面々で、俺に何の期待してるんだ?
思わず、頭が混乱する。
この板挟みにされてる感じ、堪らなく面倒臭い。
「因みに、その任務ってなんなんだ?」
ドッグに視線を向けて聞いてみる。
見ると、なにやら苦虫を噛み潰したよう表情をしている。
ああ、これはきっと、えらく厄介な任務を押し付けられたんだろうな。
めちゃくちゃ、嫌な予感がする……
それから少しの沈黙の後。ドッグが物々しげに口を開いた。
「“黒の師団”の総本部を見つけだせ、と言う任務だ……」
……ふーん、馬鹿じゃん。
うん、馬鹿じゃないかな?
それが出来たら、“黒の師団”と“白の師団”の戦争は、とっくの昔に終わってるんだよなー……
あー どんどん頭が痛くなってきた……
俺とドッグ、お互いの間に沈黙が訪れる。
その沈黙に耐え兼ねたのか、ドッグは再び頭を抱えて項垂れてしまった……




