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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-その手の感触-
36/95

☆35 突然の昇格

「ああん!? 俺が隊長だって!?」


 余りの衝撃に、ベッドから飛び起きると、パジャマ姿のまま叫び声をあげていた。

 それと同時に身体中に稲妻の様に痛みが走った。


「あいたたた……」


 思わず声が漏れる。

 それと同時に肩と腰を押さえた。


 まったく、昨日まではそれ程でもなかったんだがな。

 数日立ってから身体中が痛いのなんのって。


 筋肉痛が後から来るって、お年寄りじゃないんだからよ……


 もう腰も痛いし、剣を持っていた方の肩も痛いし。なんなら骨にヒビが入ってるんじゃねーかと思う……


 そんな様子を見ていたドッグが、俺をたしなめる。


「アルル。君は前回の戦いでかなり無理をして、身体中傷めてるんだ。取り敢えずもう少しは大人しくするといい」


 やんわりと俺をベッドに寝かし付けると、そのまま布団を直し、こちらを見下ろしながら語り掛けて来た。


「上も君の状態を見て休暇を伸ばしてくれるはずだ、今はゆっくり休むといいだろう」


 どうやら、俺の身体は現在そう言う状態らしい。

 最初はあんまり問題なかったんだがな……

 やっぱり、女の身体と言うのは、少々問題があるか……


 まあ、少し鍛えてるとはいえ。椅子に座ってばかりで、身体もろくに動かさない魔術師だからな。

 それが、いきなり戦士と同レベルの動きをしたんだ、こうなるのも無理もない。

 

 むしろ、これで済んでよかったのかもな……


 今にして思うと、下手したら戦ってる最中に肩とか外れても可笑しくなかった。

 なんなら、腰もどうにかなって取れてたろう、ブリン!とか言いながら。

 そしたら、間違いなく、死んでただろうな……


 これからはもっと本格的に身体を鍛えなければならないな……

 いやいや、それよりだ……


「それより、本当に俺が隊長になるのかよ?」


 その言葉にドッグが静かに頷く。

 どうやら、嘘ではないらしい。

 

 となると、候補生から団員、団員からの副隊長からの隊長だから、三階級ブッ飛んでの昇進になるな。

 大丈夫なのか、それ? 


 実は殉職してました、とかないよね?

 俺、生きてるよな?


「うーん、俺は査問会で御歴々に向かって、かなり喧嘩を吹っ掛けたんだがな。こう言う対応をされると何だか素直に喜べねーな。なにか裏があるとしか思えねーな」


 ドッグが頷くとこちらに視線を向けた。

 その視線は僅かに曇っている様に見える。

 恐らく、それは裏があると言う事なのだろう。


 それなら、この人事にも納得が行く。そこそこの地位を与えて黙らし地方なり辺境に飛ばす、と言った所だろうか?


「アルル。今回、君の昇進を推したのは三人の師団長なんだ……」


 ドッグが、なにやら一人でに喋り出した。


 不味い、フカフカのベッドが気持ち良くて、眠くなって来た。

 もうずっと休んでたい。

 

「一人目が魔元帥サルバザール・ガルバデイアス。二人目が剣聖レイド・バスタード。そして、三人目が舞姫シオンの三人だ。査問会での君の態度を見て、隊長に推薦したらしい。君は一体査問会で何をしたんだ?」


 思わず苦笑いが漏れちまう。

 そんな御歴々が俺を推薦したんですか……

 世の中、酔狂な人もいるもんですなー……

 

「何をしたって、そりゃ喧嘩を吹っ掛けた感じだな。ありゃ……」


 しかも、勝手に退室しちゃったし。

 

 ああ、流石は女の子。

 枕からイイニオイがするなぁ。

 自分のにおいなのにイイニオイだ。


 いや、それよりだ……


 魔元帥であるサルバザール・ガルバデイアス様はわかる。

 自分達魔術師の完成形みたいな人だからな。それに査問会でも、何度か受け答えしたしな。


 だけど、他の二人は全く知らない、顔も知らないし、あの場にいたのも知らなかった。

 一体、どこのどちらさんだ?


 もしかして、知らぬ間に失礼な事しちゃったかな。それとも、俺の態度に良い意味で思う所があったのか?


 いや、そんな事あるか?


 見ると、ドッグが呆れた果てた様に項垂れていた。

 何故、そんなに項垂れるのかな?

 いや、そりゃ項垂れますか……


 すると、ドッグが重々しげに口を開いた。


「そうか…… だから、他の査問委員の方達からは反対意見が出てるのか」


 自分自身でそりゃそうだろうなと思う。

 思わず頷いてしまう。


 俺の様子を見て、ドッグが眉を潜めながら睨み付けた。

 

 へへへ、そんな睨まないでくれよ~

 俺達、友達だろ~


「呑気に頷いてる場合ではないぞ。これはかなり切羽詰まってる状況だ。上は君に任務を与え、その任務の出来次第で今後の扱いを決めるつもりらしい」


 なんだそれは、任務の出来? 

 出来高制なの? 白の師団って? 

 使えそうなら使うし。使えなそうならポイするって事か?


「どうやら、委員会は君を隊長にしたくないらしい。だが、師団長の三人が君を推してるから、それを無下にも出来ないらしい」


 なんだか、偉い人達も大変そうだな。


「だから、取り敢えず機会は与えた、と言う体を取ろうとしているのだろう。最終的には、何かしらケチをつけて、君の昇進を白紙にするつもりだ」


 ああ、やっぱりわからないや。

 偉い人の考えることは……


 委員会の人が、そんなに躍起になる程の存在でもないだろう俺は……


 師団長の面々は面々で、俺に何の期待してるんだ?


 思わず、頭が混乱する。

 この板挟みにされてる感じ、堪らなく面倒臭い。


「因みに、その任務ってなんなんだ?」


 ドッグに視線を向けて聞いてみる。


 見ると、なにやら苦虫を噛み潰したよう表情をしている。

 ああ、これはきっと、えらく厄介な任務を押し付けられたんだろうな。


 めちゃくちゃ、嫌な予感がする……


 それから少しの沈黙の後。ドッグが物々しげに口を開いた。


「“黒の師団”の総本部を見つけだせ、と言う任務だ……」


 ……ふーん、馬鹿じゃん。

 うん、馬鹿じゃないかな?


 それが出来たら、“黒の師団”と“白の師団”の戦争は、とっくの昔に終わってるんだよなー……  


 あー どんどん頭が痛くなってきた……


 俺とドッグ、お互いの間に沈黙が訪れる。


 その沈黙に耐え兼ねたのか、ドッグは再び頭を抱えて項垂れてしまった……

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