★34 孤児院
外観はオンボロその物だったが、中は思ったより小綺麗に整えられていた。
所々にツギハギが有るのは変わらないが、人が生活出来る環境にはしている様だ……
机や椅子もちゃんとある。恐らく、これらは全部手作りだろう。だが、作りはしっかりしており、確かな安心感を覚える。
「偉くなったな、こんなもんも作れる様になったのかー、ライル」
「ええ、まだまだ未熟者ですが。親方から余った廃材を組んで作らせて貰いました」
年長の少年。ライルと呼ばれた少年が答えた。
これは彼が作った物なのか……
「驚いた、これは作ったのか、凄いじゃないか!?」
少年は「恐縮です」と会釈して見せる。
驚いたな、この歳ですでに働きに出ているとは恐れ入る。
アルルと言い、ライル君と言い。ほとほと、自分が温室育ちなのだなと痛感する。
「お姉ちゃん、これおいしー! これ何て言う食べ物!?」
「それはなー、ハンバーガーってんだ。すげーだろ、ぶっ飛ぶだろ!?」
少々、表現の方法が珍妙ではあるが、アルルの答えを聞いて子供達が嬉しそうに頷いた。
「こんなのはじめてみたー! 何処で売ってるのー?」
「ふふふ、お姉ちゃんが作ったんだぜー すごいだろー!」
アルルが満足げに答える。
その答えに、子供達が目をキラキラ輝かせながら耳を傾けている。
「えー、すごーい!! お姉ちゃん、てんさいー!!」
「ああ、お姉ちゃんは天才だぜー!!」
そんな止めどない話をしながらも、アルルは子供の口の周りについている食べ残しを拭き取って上げたり。ハンバーガーの持ち方を直して上げたりと細かな世話をしている。
すっかり、お姉ちゃんだな……
「アルル姉さんには、とても御世話になってます」
隣にいたライル君が不意に言葉を漏らした。そして、少しコチラに身体を傾けると、そっと耳打ちした、
「その、姉さんは“白の師団”では上手くやれてますか?」
「うん? まあ、色々問題はあるが、上手くはやれてると思うぞ」
僕の言葉に「それならよかったと」胸を撫で下ろした。
どうやらアルルの事が心配だったみたいだ、
まあ、そうだろうな……
「ああ、そう言えば、俺も来年からは“白の師団”で御世話になると思いますので、その時はよろしくお願いします」
「ん? どういう事だい? 君は職人になるんじゃないのか?」
少年は軽く笑うと頭を掻いた。
その様子から察するに、そうそう甘い話ではないらしい。
「俺は来年で孤児院を出なきゃならない年ですからね。職人の方は手伝い程度で稼ぎは雀の涙です。これ一本じゃあ到底やっていけません。だから、まあ、“白の師団”に入るしかないんですよ」
そう言って、自分の座る椅子をポンポンと叩いて見せた。
そうか、なかなか世知辛いな。
やはり、僕は温室育ちなのだろう。
「ですから、少し不安だったんですが。姉さんが上手くやれてると聞いて少し安心しました」
「ああ、そうか。それはよかった……」
本当によかったのだろうか。
正直、彼女への風当たりは余り良い状況ではないが、それ以上に彼女は強かだ。
だから、まったく問題ないだろう。それに何か問題が起きたなら、僕や師範が絶対に彼女を助ける為に尽力するはずだ……
だが、一抹の不安は存在する。
不意に彼女の笑顔が、その横顔が僕の瞳に移る。彼女は子供達の笑顔を優しい微笑みで眺めている。
だが、その笑顔に反して、この環境はどうだろうか。決して恵まれているとは言えない。
いや、むしろ……
彼女達に対して、僕達とは……
“白の師団”とは、何なのか……
いや、こんな事を考えるべきではないだろう。
今はただ、彼女達の笑顔がここにあることを祝うべきなのだろう……




