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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-過ぎ行くは日常は友と共に-
34/95

★33 孤児院

 所々にツギハギが見える、木造作りの簡素な家が立っている。

 正直、酷い有り様だ。所々に小さな穴が開いていて、ツギハギも間に合っていない様子だ。それに窓は立て付けが合っていないのか微妙に歪んでいる。


 ここが彼女の育った場所“白の家”か……


「ボロッちいだろう、驚いたかー」

「い、いや、そんな事はないぞ。趣があって良いじゃないか?」


 つい思ってもない言葉が漏れてしまう。

 こんな事を言ったって、アルルにはバレる筈なのに……


 案の定、アルルを見ると、ケタケタと悪戯っ子の様な笑みを浮かべながらコチラを見ている。

 だが、そう言う反応なら良かった。

 彼女の気分を害してしまわなくて安心した。


「おらー! クソガキ共ー!! 出てこいやー!!」


 彼女が不意に大声で叫ぶ。

 その声に呼応する様に孤児院の扉が鈍い音を立てて開かれ、そこから一人の男の子が姿を表した。


「アルル姉さん!!」


 彼はこちらを見ると一目散に駆け出し、こちらにやって来た。

 そして、それに続くように子供達がゾロゾロと姿を表した。

 

「アルルお姉ちゃん、お帰りー!!」

「お姉ちゃーん、お帰りー!!」

「お土産、買ってきてくれたー!?」

「わーい、お姉ちゃんが帰って来たー!!」


 総勢五人の子供達がアルルの元に集まり、彼女を囲んだ。

 皆が一応に嬉しそうな顔を浮かべて彼女に抱きついている。アルルの方も笑顔でそれに答えている。


「ほーら、よしよし。全員、良い子にしてたかー。元気だったかー?」


 一人一人の頭を撫でながらアルルが笑う。

 そして、最初に出てきた男の子の前に来ると、他と同じ様に頭を撫でようと手を伸ばすした……


 彼はそんな彼女の手を掴み、制止する。


「アルル姉さん。流石に俺はそう言う歳じゃないよ」

「おおー、いつの間に俺よりデカくなってる! 前回は会えなかったけど、デカくなったんだな、オメー!!」


 確かに、アルルより彼の方が僅かに身長が大きい。

 彼がこの孤児院の年長さんだろうか。

 彼の視線がこちらに向く。


「姉さん、コイツは誰だ? もしかして、姉さんの男か?」


 な!? コイツは何を言ってるんだ!?

 そんな事を言ったら、アルルにどう思われるか!


「ちげーよ。コイツはハウンズ・バスカヴィルって言う金持ちのボンボンだ。今日は荷物持ちになって貰った」

「はあ、そりゃ御苦労様。荷物をコチラ……」


「あ、ああ……」


 そう言って、こちらに伸ばす手に答えて、荷物を渡す。

 その時に気が付いたが、この少年かなり鍛えている。手に幾つもの豆もあり、何やら鍛練の後が窺える。


 それ故か、僕がやっとこさ待っていた荷物を軽々と持ち上げるて見せると、さも何事も無かったと言った様子でこちらを見た。


「姉さん、これ貰っちまっていいのか?」

「おーよ、その為に買ったんだぜ。服とか果物とか色々買ったからよ、皆で分けてくれ。くれぐれも喧嘩はすんじゃねぇぞ、わかったな」


 アルルの言葉に子供達が一斉に「はーい!」と元気良く答えた。


 ああ、やはり、あの買い物はこの子達の為だったのか。

 

 まったく、そう言ってくれれば良いのに……

 説教なんてする必要なかったな……


 冷静に考えてみれば、それはそうか、彼女は恵まれぬ環境で今までで生きてきたんだ、お金の大切さなんて、温室育ちの僕なんかより何倍も理解しているだろう……


「まったく、君には驚かされてばかりだよ」

「あ? なんだー?」


 彼女は首を傾げてみせる。

 まったく、これを天然でやっているのだから恐れ入るよ。


 先日の功績と言い、自分と彼女の差をまざまざと見せ付けられている気分だよ。


 まあ、何故だが悪い気はしないんだがね。


「あ、そーだ。街で人気のケーキ買ってきたからよ、皆で食べてくれや。飯も持ってきたからよ、テキトーに食ってくれ!」


「わーい、お姉ちゃん、ありがとう!!」

「お姉ちゃん、大好きーー!!」

「ケーキ大好きーー!!」

「ケーキ、ケーキ♪」


 彼女はバケットとケーキの入った箱を渡すと子供達と共に孤児院の中へと向かって言った。


「アンタも、ボロくても構わないならどうぞ……」


 年長の少年が大層な荷物を持ったまま、コチラに語り掛けてきた。


「ああ、ありがとう。お邪魔するよ……」

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