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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-過ぎ行くは日常は友と共に-
33/95

★32 休暇

 ホワイト・ロックの城下へ向かうと、彼女は一目散に人混みへと突っ込んで行った。


 日も高くなり初めて、市場には活気が充ち溢れ、人々が行き交っている。

 先日はここが戦場になっていたとは、とうてい信じられない。


「おっちゃん! これくれよ!!」


 彼女が服屋から、可愛い女の子の服を買い。それを僕に持たせた。

 驚いた、彼女も女の子なのだな。

 服に興味があったとは……


「あ、おばさん!! これも貰えるか!!」


 次には男の子が着る様な服を買って待って来た。勿論、それも僕に持たせる。

 ふむ、まあ、彼女になら、そう言ったら服も似合うかもしれないな……


「お! この服、可愛いじゃねぇか、いくらだ?」


 再び、可愛らしい服を持ってくる。

 無論、僕にそれを持たせる。


「お! これも良いじゃねえが、くれくれ!!」


 また、なにやら服を買って来た。

 もはら、何を買ってきたのか良くわからない。


「あ! これ人気のケーキだよな、買えるか?」


 今度はケーキだと?

 まったく、いくつ買えば気がすむんだ!?


「いやぁー、ドッグが居て助かったぜ。こんだけ買うと俺一人じゃ持てねーからな♪」


 上機嫌そうに彼女が笑う。

 前言撤回だ、手に負えない。


 なんだこれは、彼女の休暇に付き合うのは悪くないが、ここまでの私用だとは思っても見なかったぞ。

 それに……


「おい、アルル! こんなに買ってお金は大丈夫なのか!? 後で泣きついても貸してやらないからな!!」

「へへへ、ざんねーん。隊長撃破報酬で金はたんまり貰ってるんだぜ!!」


 彼女は、人気のケーキとやらを受け取りながらニヤリと笑った。

 まったく、考えられん。お金が有るのは結構なことだが、この散財っぷりではいつか身を滅ぼすぞ。


 後で、たっぷり説教をしてやらねば……


「まったく、いくら食えば気が済むんだ。そのケーキもあっという間に食べてしまうんだろ?」

「いや、これは食べない……」


 そう言うと彼女は笑って見せた。

 本当に嬉しそうに、年相応の笑顔を作った。


 思わず、見とれてしまう……


 何時もの小悪魔の様な笑顔ではなく。純粋な少女の優しいく可愛らしい微笑み。


「ドッグ、着いて来てくれ」

「あ、ああ……」


 彼女の表情に見とれていた僕は、その言葉に誘われる様に歩きだした。


 彼女の先程の表情に絆され、思わず説教をしようとしていたのも忘れてしまった。


 一体、何が彼女にそうまでさせたのだろうか……


 彼女は黙って歩く。

 その胸に抱いたケーキの入った箱を、大変嬉しそうに抱いて。

 それは、いつもの上機嫌な様子とはまったく違って見えた。


 何処か、清純で清廉な雰囲気すら感じられる。


 しばらく歩くとホワイト・ロックの郊外にやって来た。人だかりも何時のまにかに疎らになり。町の作りもかなり簡素になって来た様に見える。


 このホワイト・ロックにスラム街と言う物は無いが、どこでも治安が良いと言う訳では決してない。


 彼女はここに一体何のようがあるのだろうか?

 

 そう思っていた矢先、恐らく彼女の目的であろう建物が目に入った。


 ああ、僕はなんて馬鹿だったのだろうか……

 彼女がこんな所に用事があるとした、たった一つだろう……


 そうか、さっきまで買っていた物は全て……


「ようこそ。ドッグは初めてだよな。ここが俺の育った孤児院。“白の家”だ!」

 

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