★32 休暇
ホワイト・ロックの城下へ向かうと、彼女は一目散に人混みへと突っ込んで行った。
日も高くなり初めて、市場には活気が充ち溢れ、人々が行き交っている。
先日はここが戦場になっていたとは、とうてい信じられない。
「おっちゃん! これくれよ!!」
彼女が服屋から、可愛い女の子の服を買い。それを僕に持たせた。
驚いた、彼女も女の子なのだな。
服に興味があったとは……
「あ、おばさん!! これも貰えるか!!」
次には男の子が着る様な服を買って待って来た。勿論、それも僕に持たせる。
ふむ、まあ、彼女になら、そう言ったら服も似合うかもしれないな……
「お! この服、可愛いじゃねぇか、いくらだ?」
再び、可愛らしい服を持ってくる。
無論、僕にそれを持たせる。
「お! これも良いじゃねえが、くれくれ!!」
また、なにやら服を買って来た。
もはら、何を買ってきたのか良くわからない。
「あ! これ人気のケーキだよな、買えるか?」
今度はケーキだと?
まったく、いくつ買えば気がすむんだ!?
「いやぁー、ドッグが居て助かったぜ。こんだけ買うと俺一人じゃ持てねーからな♪」
上機嫌そうに彼女が笑う。
前言撤回だ、手に負えない。
なんだこれは、彼女の休暇に付き合うのは悪くないが、ここまでの私用だとは思っても見なかったぞ。
それに……
「おい、アルル! こんなに買ってお金は大丈夫なのか!? 後で泣きついても貸してやらないからな!!」
「へへへ、ざんねーん。隊長撃破報酬で金はたんまり貰ってるんだぜ!!」
彼女は、人気のケーキとやらを受け取りながらニヤリと笑った。
まったく、考えられん。お金が有るのは結構なことだが、この散財っぷりではいつか身を滅ぼすぞ。
後で、たっぷり説教をしてやらねば……
「まったく、いくら食えば気が済むんだ。そのケーキもあっという間に食べてしまうんだろ?」
「いや、これは食べない……」
そう言うと彼女は笑って見せた。
本当に嬉しそうに、年相応の笑顔を作った。
思わず、見とれてしまう……
何時もの小悪魔の様な笑顔ではなく。純粋な少女の優しいく可愛らしい微笑み。
「ドッグ、着いて来てくれ」
「あ、ああ……」
彼女の表情に見とれていた僕は、その言葉に誘われる様に歩きだした。
彼女の先程の表情に絆され、思わず説教をしようとしていたのも忘れてしまった。
一体、何が彼女にそうまでさせたのだろうか……
彼女は黙って歩く。
その胸に抱いたケーキの入った箱を、大変嬉しそうに抱いて。
それは、いつもの上機嫌な様子とはまったく違って見えた。
何処か、清純で清廉な雰囲気すら感じられる。
しばらく歩くとホワイト・ロックの郊外にやって来た。人だかりも何時のまにかに疎らになり。町の作りもかなり簡素になって来た様に見える。
このホワイト・ロックにスラム街と言う物は無いが、どこでも治安が良いと言う訳では決してない。
彼女はここに一体何のようがあるのだろうか?
そう思っていた矢先、恐らく彼女の目的であろう建物が目に入った。
ああ、僕はなんて馬鹿だったのだろうか……
彼女がこんな所に用事があるとした、たった一つだろう……
そうか、さっきまで買っていた物は全て……
「ようこそ。ドッグは初めてだよな。ここが俺の育った孤児院。“白の家”だ!」




