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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-闘争それはある日突然に-
30/95

☆29 終結

 身体も痛いし。

 胃も痛い。

 頭も痛い。


 色々な意味で重い身体を引きずるように会議室から出る。

 全く、老いぼれ共め。少しは人の体調の事を考えやがれ。こちとら、中身は男でも、身体は女の子だぞ。


「アルルや。よくぞ生きて戻った。本当によくやった」


 声のした方向を見ると二つの人影が立っていた。どうやら、俺の事を待っていたらしく、こちらに近づいてくると、優しく抱き寄せてくれた。


 二人を見て、自分の心が安らぐのがわかる。


「パウル師範。それはコチラのセリフですよ……」


 孤児院にいた頃から世話になっているパウル師範。

 今にして思えば、俺にとっては本当に父の様な存在だな。

 “術式”だって、パウル師範にだけは見せていた。


 これは希望的観測ではあるが。パウル師範も、俺の事を娘とは行かないまでも、世話の掛かる弟子程度に思ってくれているのだろう。


 そう思うと少し心が暖かくなる。なんだが、それと同時に肩の荷がスッと軽くなった様な気もした。

 どんな形であれ。一人じゃない事が、これ程ありがたいとは……


 そう思うと、師範にはかなり気苦労をかけてしまっただろうか……

 まあ、それを言ったら……


「そう言えば師範! “黒の師団”の軍勢が見えた時、もしかしたら師範の身に何かあったのかと思いましたよ、しだかりして下さいよ!!」


 師範の優しいさに、少し皮肉を混ぜた返しをする。

 でも、実際の所、本当に心配した。


「ああ、私も前線を離れる訳には行かなくてな。取り逃した部隊を追う事が出来なかったんだ。すまなかったな。私が不甲斐ないばかりに……」


 そう言って、パウル師範が申し訳なさそうに頭を下げた。


 でも、それなら納得できる。正直、隊長格とは言え、俺がまともに戦える様な相手に師範が遅れを取るはずがないとは思ったが。

 単純に手が回らなかっただけだったのか……


「全く、君には驚かされるばかりだよ……」


 そう言って、俺の元にもう一人の人物が駆け寄って来た。

 相も変わらず、呆れたと言った表示を浮かべている。


「ドッグも怪我はねーみたいだな。無事でよかったぜ」

 

 俺の言葉にドッグは目を丸くすると笑って見せた。


「まったく、ボロボロの君には言われてちゃ、僕もまだまだだな……」


 ああ、確かにこの中で一番ボロボロのなのは俺か……


 思わず、自分の頭を掻く。

 そんな俺の様子を見て、師範もドッグも同時に声を上げで笑いだした。


 ああ、そうから帰って来たんだな、俺は……

 なんとか、帰ってこれたんだ、俺は……


 本当によかった。

 無事に終わって、本当によかった。


 また、皆と笑い合えて本当によかった。


 ああ、そう言えば査問会で結構生意気なこと言っちゃったけど。大丈夫かな? 


 まあ、どうでもいいか。

 元々、成り上がろうなんて思ってもないし。干されたり、左遷されたりするなら望むところだな。

 左遷されたら、左遷されたらでサボれそうだし。それはそれでゆったり出来るかもな。


 それに、俺まだ候補生だしな、そう言った物とは無縁だろう。取り敢えず色々あった事だし、今日は部屋に戻ってゆっくり休むか……


 そう思った瞬間、緊張の糸が切れたのか、あるいは気が抜けたからなのか、足から突然と力が抜け。床へと、へたり込んじまって立てなくなった。


 そんな俺の様子の私を見て、ドッグが目を丸くしながら口を開いた。


「おい、大丈夫かアルル? 突然、床になんか座り込んで、だらしないぞ」


 いやいや、少しは察せよ!

 あの戦いでの緊張と、査問会での御歴々との謁見で腰が抜けちまったんだよ。


 正直、もう腕も肩も腰もガタガタだ……

 頭も重いし、熱っぽいし、最悪だ……

 速く横になって休みたい……


 ドッグよりも先に、師範が俺の状態を察して、優しく語りかけて来てくれた。


「ははは、今頃になって緊張の糸が切れたのかアルル。まあ、無理もない。初めての実践で隊長格との戦闘。査問会での謁見。少し荷が勝ち過ぎたのだろう……」


 全くその通りだ。

 俺には些か荷が勝ち過ぎた。


 俺の様子を見ていた師範が、背をこちらに向けてしゃがみこんだ。


「どれ、おぶってやろう」

 

 まさかのおんぶだ……

 まあ、もう動けないから大人しく師範の首に手を回し、おぶって貰う事にする。


 俺を持ち上げる時に師範が「重くなった」だの「昔もこうやっておぶった」だのと口にする。


 そんなのちゃんと覚えてるか言わなくていいのに……


 そんなことを思いながら、師範の揺れる背中に頬を預ける。

 不意に懐かしいにおいがした……


 俺がこの世界で持っている。数少ない、あたたかくて、優しさに溢れた記憶が甦る。


 視界が揺れる、身体が揺れる。


 何時しか、心地よい揺れに揺られている内に、睡魔が襲ってきた。


 凄まじい睡魔だ……


 ああ、不思議な感覚だ、まるで夢の世界へ落ちて行く様だ、落ちるように落ちるように……

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