☆2 アルル【挿し絵あり】
ふう、これでやっと落ち着けるな。
溜め息を吐くと、クローゼットについている小さな姿鏡に視線を移す。
子供っぽい顔に金色の瞳。肩で切り揃えた白っぽい金髪に、子供っぽい身体。そして、子どもっぽく細っこい四肢。
いちおう、女の子とわかる程度の膨らみはあるがそれだけ。
このローブを纏ってしまえば。さあ、男の子女の子どちらでしょうと言った感じだ……
まあ、それはそれでやりやすい。
なんせ、俺の前世は男だったからな。
ただ、この前世の記憶と言うのも微妙な物でかなり霞がかっている。
記憶の中にある前世の世界は不思議な場所で、鉄の塔が幾百とそびえ。鉄の箱が走る世界だった。
この世界よりも遥かに文明が発達していて、何もかもが進んだ世界。
俺には、そんな世界で生きていた時の記憶がある。
だけど、なんで俺が死んだのか、どういう人生を送ったのか。それはいまいち思い出せない。
霞がかかっていて、ハッキリと思い出せないんだ。
しかも、その世界の知識も思い出せる範囲と思い出せない範囲がある。
この世界で一体、この記憶をどう扱ったらいい物か、と言う感じだ……
もしかしたら、この記憶は只の妄想で、俺は電波を受信してしまった、只の変人なだけかもしれない。
「なんで、こんなことになったのかね……」
そう、なんでこうなったか……
今世での俺は戦災孤児で、物心ついた時には既に路地裏の泥水を啜って生きていた。
よく変な病気を貰わなかったなと思うが、今にして思えば、あの時の俺は既に前世の記憶を頼りにし。何とか食べられそうな苔だの、虫だの、キノコだのを選別して口にしてたのかもしれない。
まったく、幼少期の生存本能とは大した物だ。
そんなこんな生きていた俺に、ある日転機が訪れたんだ。
大して色香のない。しかも、幼い俺を組伏せようとする男に出会ったのだ。
そう、あの夢の男だ……
あの日を思い出すと、今でも恐怖で僅かに手が震える。
暗闇の中、顔も何もわからなかったが、あの手の恐ろしさと、醜さと、ニオイだけは今でも鮮明に悪夢として甦る。
そして、その時に俺の中に眠る一つの才能が覚醒した。
それが“魔術”の才能だった。
後で聞いた話、俺の先天的な“魔術属性”は雷らしい。
それこそ、無我夢中でがむしゃらに発動させた“魔術”は凄まじい稲光となって放たれ。その男を一瞬で消し炭にしてしまったのだ……
晴れて、俺は人殺しである。
あの時の凄まじい轟音と、目を見張る程の稲光は今でも忘れはしない。
そして、その恐ろしい程の威力も決して忘れはしない。
なんせ、人一人の命を意図も容易く絶ってしまったのだ。
忘れようにも忘れられない。
いくら、自分を犯そうと襲って来た男でさえだ……
結果、その騒ぎを聞き付け、現場に駆け付けた“白の師団”の人間に俺は後々保護された。
最初は訳もわからず、逃げ回ったりもしたんだが、最終的には捕まり今現在へと至る。
それが今までの俺、アルルの物語だ……