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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-闘争それはある日突然に-
29/95

☆28 啖呵

 会場がざわつく。

 

 この“術式”はある意味で一人の魔術師に剣を握らせて、兵士へと仕立てあげる“術式”に等しい。

 つまり、これを簡単に説明すると術者を「磁力の力を用意て、勝手に身体が動く兵士」へと仕立てあげる物なんだ。


 術者の素養や精神、考えや思想。それを何の関係無く、兵士へと変えてしまう。


 そんな、恐ろしい白物なんだ……


 これは“術式”を産み出した本人として、重々承知していたハズだった。

 しかし、あの男。フランソワ・ロベスピエール。彼に止めを刺す瞬間、その事実を痛い程に痛感した。

 

 あの時、俺は止めを刺す覚悟が揺らいでいた。

 最後、今際の際の、あの言葉に俺は完全に絆されていた。


 だが、“術式”がそれを許さなかった。


 既に磁力の力が宿り。勢いのついてしまっ剣は止まること無く、彼を無惨にも両断していた。

 

 自らの感情とは裏腹に、俺は彼を殺めてしまった。

 今にして思えば、これは俺の責任だ。彼を殺したのは致し方ない事だったと割り切れる。


 しかし、それはこの戦いにおいて。俺が自分自身で、戦う理由と覚悟を決めることが出来たからだ。

 更には、この“術式”を産み出した張本人だから割り切れるんだ。


 全てが自分の責任だと……

 

 だけどだ。研究者志望の魔術師がこの“術式”を教えられ。剣を握ったとしよう。

 自分は戦いたくないし。“魔術”は人の繁栄の為に研究する物だと、そう思っていた魔術師は一体何を思うのだろうか。


 無理矢理戦う自分の肉体に、救うはずだった人を殺める兵士となった自分を見て、どう思うか。

 そんな魔術師が溢れる戦場を見て、彼らは何を思うのだろうか……


 そんな未来は、絶対に作ってはならない。

 救えないにも程がある。


 俺は、人の繁栄の為に“魔術”があるなんて高尚な思想はない。だが、少なくとも……


 この“魔術”と言う力と、“術式”と言う技術は、誰かを守る為に使いたいとは思ってるんだ。

 ただでさえ、多くの人間を傷付ける力と技術であるからこそ……


 俺の記憶と知識は、その為にあると思っている。

 大切な人や物を、皆の笑顔を守る為……


 “白の師団”なんて、俺に取ってはどうでもいい。

 “黒の師団”だってどうだっていい。


 だけど、俺の知り合いや、ドッグの様な候補生の仲間達。孤児院の姉弟達。食堂のおばちゃんに、メイちゃんやホワイト・ロックの人達……


 彼等を俺は守りたい……


 その為に、この“術式”を産み出したんだ。

 俺自身が戦える様にと……


 間違っても、他の誰かを戦わせる為に産み出した訳じゃねー。


 そう、この“術式”を開示すれば、俺の信念が根底から揺らいでしまう。大切な仲間達を守る為に作った“術式”なのに、その仲間達を戦場に送り、傷つけてしまう物に一変させてしまう。


 それだけは絶対に許せねー。


 恐らく、この考えは組織としては間違っている。

 それでも、これだけは絶対に譲れねーんだ。


「“術式”の開示をすれば、それ相応の待遇を約束するぞ」


 査問委員の一人がコチラに言葉を投げ掛ける。


 恐らく、コイツは俺の“術式”が欲しいんだ。

 大して才能もなく、家名も無く、魔術師としての歴史も無い。そんな俺が産み出した“術式”が……


 無理もない。


 何も持っていない、俺が産み出し。隊長格を下した程の“術式”なんだ。

 それは、きっと単純だが汎用性の高い“術式”だと思っているのだろうよ。

 その推測は正しい、全くもってその通りだ。思わず、溜め息が出る。

 

 スッタコ共が、だからこそ、渡せねーんだよ。

 

「もし、“術式”を開示すれば、貴方の古巣である孤児院への支援金も増やしますわよ」


 論外だね、スットコドッコイマダム。

 交渉の余地もねー。俺がその条件を飲んだら、一番に守りたい姉弟達が将来、望まぬ戦場に送られるかもしれねーんだ。


 どうやら、俺の我慢も限界みたいだな。

 猫被ってるのも、いい加減限界だ。


「おい、ジジイにババア共よー、残念だがなー、どんなにお金を積まれようが、厚待遇で迎え入れられようが、俺はこの“術式”を開示するつもりはねー」


 会場が再びざわつく。

 

「き、貴様、失礼だぞ!!」

「口を慎まないか!!」

「自分の立場がわかっているのか!!」


 様々な罵声が降り注ぐ。

 それでも構わない。

 

 慣れない、おべっか使うよりマシだ…


「この査問会が俺から“術式”をかっぱぐ為に設けられたんなら、俺から出来る事はねー。二度とその面白くねーツラ見せんな、クソジジイにババア共!」


 俺の余りの暴言とは裏腹に、彼等は何も返答はしなかった。

 見ると、皆一様にして目を丸くしている。


 俺の豹変具合に驚いて要るのだろうか。

 それならそれで好都合だ。

 この期に乗じて帰ってやる。


「他に用がないなら、俺はこれで失礼させて貰うぜ。精々、長生きしろよ老いぼれ共!」


 そう言い切り、俺は踵を返して会議室を出て行った。

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