☆24 術式【挿し絵あり】
目の前で黒い剣が浮いている。
そう、まるで何者かが持っているかのように、宙に浮かんでいる。
無論、これは俺が倒した“黒の師団”の団員が装備していた黒い剣だ。
これがメリットの一つ目。俺の“魔術”を受けた者の装備が、俺の支配下になる、と言うものだ。
ただ、生きてる相手から武器を奪い取る、と言った芸当はまだ出来ない。だが、死んでる相手からなら問題は無い。
彼等は俺の“魔術”をもろに受けて死んでいる。
つまり、条件はバッチリ揃っている。
そして、2つ目のメリットが先程起きた現象だ。
この剣に磁力を纏わせ支配するのはいいが、この磁力を纏った剣の向かう先がない。的が必要だ、同じく磁力を纏った的が……
プラスならばマイナス。マイナスならばプラス。と言った様に引かれ合う的が……
実はそれが目の前にあるんだ……
先程から、俺をボカスカと殴っていた鉄棍。
それは俺の《アッガイの衣》に触れている。
勿論、この《アッガイの衣》にも“術式”の一部が組み込まれてる。これに触れた物は磁力を帯びて“術式”の支配下へと入る。
そう、つまり“術式”が生きる条件は幸か不運か揃っているんだ。
俺は宙に浮いていた剣を手に取り、強く握り締め剣に魔力を込める。
正しくは、剣に宿った磁力に“魔力”を込めているのだが、この際どちらでもよい。
とにかく、これで剣に宿る磁力が更に増す。
すると、剣は独りでに男が持つ鉄棍目掛けて飛んで行く。
俺はその剣に引っ張られ、誘われる様にして男の懐へと潜り込む。
なるだけ、剣の挙動を邪魔しないように……
しかし、男もただ突っ立ている訳もなく。こちらの握った剣を反射的に弾いてみせた。
「甘いわよ! 魔術師がアタシ等戦士に勝てると思ってるの!? 舐めないでちょうだい!」
先程、剣を弾いた鉄棍を直ぐ様ひるがえし、凄まじい勢いでコチラに向かって振り下ろして来た。
舐めて貰っては困るのはこちらの方だ……
剣にもう一度魔力を流し込む。
すると、剣は凄まじい勢いで鉄棍へと向かって行き、その勢いのまま衝突し甲高い金属音を響かせた。
瞬時に、“魔力”を剣へと流し込むのを止め、後ろへと後退する。
こうしないと、磁力でお互いの得物がくっついてしまう。
くっつたら力押しで潰されるかもしれないので、瞬時に引き下がる必要がある。
あと、こうしないと俺が何をしてるかバレる可能性がある。
ぶっちゃけ、バレた所でこの“術式”は汎用性が売りだから、大して問題ではないが、一応は用心はしておく。
これで傍目からは見れば、魔術師の癖に、俺がこの男と剣で互角に渡り合っている様に見えるだろう。
彼本人は若干の違和感が有るかもしれないが、それは仕方がない。
先程も言った様に、汎用性が売りの“術式”なので、バレても関係ねー。
「驚いたわね、アナタ。魔術師にしておくには惜しいわね」
よしよし、どうやらバレてねーみたいだ。
いいぞ、“術式”も思ったより上手く起動してる。
魔力のオンオフも、強弱の調節も悪くない。初めてにしては上出来だ。
これならば戦える。なんなら勝てるかもしれねー。
よし、行くぜー!
これからが正念場だ!!
剣に魔力を流し込み。今一度、磁力の勢いに身を任せたまま男の懐へと飛び込んだ。




