☆22 敵
これは殺気!?
その瞬間、咄嗟に頭の中でも呪文を唱える。
(《雷の書 三章 アッガイの衣》)
瞬間、身体から青白い光が現れ身体に纏わりつく。最低限の“防御魔術”だが、これで大抵の攻撃は大きく軽減できるはず……
しかし、それとほぼ同時に首に激痛が走り、気づけば宙を舞っていた。
更に気が着いた時には、何故か空を仰いでいた。
「なるほどね。呪文を唱えないで魔術を発動できるって事はアナタ、中々出来る魔術師ね?」
声のする方向へ直ぐ様、視線を向ける。
そこには黒い革のジャケットに、同じく革のズボンを纏った痩せ形の男が一人立っていた。
撫で付けた様な黒髪をしており、その顔は非常に奇っ怪な風体をしていた。
肌は病的な程に白く、唇は何か塗っているのだろうか真っ黒に変色している。
そして、その手には長く黒い棒が握られていた。
棍と言う所だろうか。棍棒と言うには余りにも細く、棒と言うには少しばかり重々しい。
強いて言うなら、槍や斧から刃の部分を取った物体と言った感じだ……
痛みが走り、思わず首を押さえる。
恐らく、アレでぶん殴られたのだろう。
なら、あの衝撃も納得出来る。
最低限の防御呪文ではあるが《アッガイの衣》を纏っていなかったら、首が折れていたかもしれない。いや、確実に折れていたな、こりゃー。
まったく、この男、俺の《ガルバディアスの戦車刑》を避けたのか?
一体、どうやって……
不意打ちの形になっていたはずなのに……
まあ、どうやったかはわからないが、少なくとも、この男かなり出来る。それは間違いない。
油断だけは、しないようにしなければ……
「アタシは”黒の師団”。第九師団所属。陸戦部隊隊長、フランソワ・ロベスピエールよ」
鉄の棒の先端をこちらに向け、男はそう言った。
なんで、オカマ口調なんだ。
そんな疑問が頭を過る。
まあ、それは俺と同様でセンシティブな話になりそうなので無視しとこう。
問題なのは、この男が隊長格であると言うことだ……
完全に相手の方が格上だ。
「さあ、アナタの名前を教えてちょうだい。可愛らしい魔術師さん」
男は黒い唇を歪めると、不適に笑ってみせた。
不味い、どうするか……
いや、ダメだ。弱気になるな。この男の体つきや体裁きからして明らかに戦士だ、魔術師ではない。
なら、こちらの魔術を上手く使い不意を突けば勝てる可能は十分にある。
大丈夫、やるんだ。
それに、ここで俺が退いたら他の人達に危害が及ぶ。
それだけは……
それだけは絶対に許せない。
ここだ、ここが俺の戦場だ!!
そして、退くことの許されないデッドラインだ!!
覚悟を決め、目の前の男を睨み付ける。
「俺は“白の師団”候補生のアルルだ!」
僅かに声が上擦る。自分自身が緊張しているのが感じ取れる。
コチラの言葉と言動を見て、男が目を丸くした。
「あらまあ。じゃあ、私の隊は候補生ごときに壊滅させられちゃったってこと? やだ~ あり得な~い」
瞬間、顔面に激痛が走り。視界が真っ赤に染まった。
《アッガイの衣》の効果がまだ残っていたお陰で致命傷には至らなかった様だが、目に手痛い一撃を貰ったらしい。
見ると男は先程いた場所から一歩も動いていない。いや、動いていない様に見えるだけで間違いなく動いたん筈だ。
その証拠に、地面が焦げ付いている。
まるで、車かなんかが急ブレーキを掛けたかの様に……
凄まじい勢いでこちらに踏み込み。俺の可愛い顔面に突きをお見舞いしてくれたらしい。
そして、凄まじ勢いで元の位置へと戻った、そんな所だろう。
油断した、一発、良いのを貰っちまった。
危うく、視野を半分持っていかれる所だったぜ。
そうなっていたら、いよいよ不味い状況になっていだろう。
「その魔術の鎧、結構厄介ね。先ずはそれをひん剥いてやりましょう」
そう口にすると強く足を踏み込み、凄まじ勢いでこちらへと向かって来た。
やっぱり、出し惜しみなんてしてる場合じゃねーな。
最初っから全力。俺のとっておきでヤルしかない。
瞬時に魔力を練り上げ、ありったけの魔力を込める。
《術式展開 専権磁界》
その瞬間、青白い稲光が俺の周囲で弾けだし。眩い光が俺を包んだ。




