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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-闘争それはある日突然に-
14/95

☆13 混乱

「く、黒の師団が攻めて来ただって!!」


 ドッグの驚きの声が鈍く響いた。


 そんなの当たり前だ。この“白の師団”の総本部であるホワイト・ロックに“黒の師団”が攻めて来るなんて、一大事以外の何者でもない。声を荒げて当然の事態だ。


「ああ。今、郊外の一番外れの方で交戦してるらしい。今さっき、団員達が出ていったのを見たんだ!」


 成る程「出て行った」と言うことは、出撃したと言うことだろう。

 

 郊外の外れか……

 孤児院は“白の家”は大丈夫だろうか……

 いや、今は余計な事を考えるのは止めよう……


 先ずは団員達が出て行ったと言うことは、俺達候補生も出撃する可能性があるのだろう。

 問題なのは、どれだけの規模の軍勢が攻めて来たのか。俺達は優勢なのか、劣性なのかと言う事だ……


 人だかりに目をやる。


 皆が一応に不安と恐怖が入り交じった表情をしている。

 視線も落ち着かずにキョロキョロと周りを見ている者や、逆に不安で視線を落とし頭を抱えている者もいる。中には、何かを諦めて座り込んでしまっている人も目につく。


 恐らく、この様子を見る限り、この中に正確な戦況を把握してる人は一人もいないだろう。


 ドッグを見ると、俺と同様に人だかりを不安げに見ている。

 俺はドッグのローブを摘まんで、少し引っ張ってみた。


「な、なんだい、アルル?」


 一瞬、動揺したが、彼は直ぐにこちらに視線を移してくれた。

 その顔は若干の不安を抱えている様には見える。

 当たり前のことだろう。


 しかし、他の人と違うのはドッグは俺の方を見ながらも、チラチラと視線の端で候補生達にの様子を訝しげにうかがっている所だ……


 恐らくだが、自分の不安な感情よりも、この集団の落ち着きの無さを不安に思っているのだろう。


 それならば俺と考えは同じだ。


「ドッグ、この状況は不味いぜ。正しい情報が入って来ねーから。全員が軽いパニックになってやがる。師範から正しい戦況を聞いて、皆に知らせた方がいい。もしかしたら、大したことねーかもしれないしな……」


 最後の言葉は希望的観測だが、そう言った可能性だって十分ありえる。まあ、その逆も然りではあるけどな……


 俺の考えを読み取ったであろう、ドッグが勢い良く頷いた。


「ああ、その通りだ。師範に指示を仰ぐべきだな。行くぞ」


 そう一言だけ言うと、ドッグは先程来た道へ振り返ると勢い良く歩き出した。

 俺も、それにくっついて歩いて行く。


「危ない所だった。危うく、あの場の雰囲気に呑まれるところだった。助かったよ、アルル」


 ドッグが若干の冷や汗をかいている。

 俺も自分の額を拭ってみると、冷や汗をかいていた。


 いいや、仕方ない。こんな状況で冷静に物事を判断する方が難しい。

 かく言う俺も、今の行動が正しいなんて威張るつもりもない。


 正しいかなんてわかりもしない。


 そんなの、事が終わってみなきゃわからねーし。なんなら、終わってみても、わからねー可能性だってある……


 恐らく、これはそんな類いの話だ。


 だからこそ、正しい情報は何よりも大切だ。

 なるべく正しい判断をする為に、正しい情報を手に入れるべき……

 そして、皆と共有しなきゃならねー。


 たが、それが出来ていないみてーだからな。俺達が動くしかないと言う所だ……

 

 よし良いぞ、少しずつ冷静になってきた。

 そうだ、冷静になれば誰だってわかる。


 まあ、その冷静さを皆が失ってしまっているのが問題なんだがな。

 だが、彼等も“白の師団”の一員だ、正しい情報が入ったら、いつもの規律を取り戻してくれるはずだ。

 

「とにかく、速く師範の所に行かねば……」

「おお、そうだな……」


 俺達二人は足早にその場を後にし、師範の部屋へと向かった。

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