☆11 一日の終わり
ほんのり暖かい光が俺に振り掛かり、その眩しさに目が覚める。
見ると、窓から強い日差しが俺に降り注いでいる。
「まったく、やっと起きたか、アルル!」
視界が揺れている事に気が付く。誰が俺を揺らしているのかと犯人を探すと、ドッグが呆れたと言った具合でこちらを見下ろしていた。
ああ、これは流石にマジで呆れられている顔だな……
まあ、これは俺が悪いな……
「いやはや、寝ちまったよ……」
結局、あの後の授業も夢うつつで、ろくに受けれなかったな。
そして、気付けば今日の授業は終わってしまった様だ……
見ると、ドッグは腕を組むと眉を潜めていた。そして、ほとほと呆れた様子で口を開いた。
「寝ちまったよ、じゃないだろ」
俺達のやり取りを見ていた、他の候補生達のせせら笑う声が聞こえてくる。
ドッグがその笑い声のした方向を睨み付け、無言のまま一喝する。
女の子みたいな綺麗な顔してるのに、すっげー怖い顔……
眉間に深い皺が刻まれ、そこから第三の目が開眼するんじゃねーかと思える程の形相が目の前で作られた。
次は俺が怒られるんだろうなぁ……
今の内に逃げちゃお……
その怖い顔のまま、ドッグが俺のいた席に向き直る。
残念ですが、そこに私は居ません。眠ってなんかいません。
「なぁッ!? アルルッ、何処に行ったぁッ!!」
慌てて周りを見渡すドッグを余所に、俺は教室をそそくさと後にする。
千の風になって逃げる……
「ふぅ、危ねーとこだったぜ……」
ドッグには悪いが、今日はさっさと姿を眩ましてしまおう。
そうと決まれば、先ず行く所は食堂だ。
「おばちゃーん、サンドイッチ下さーい!!」
「ああ、はいよ。いつものだね!!」
おばちゃんは俺の顔を見ると何時もの流れと言った具合で、バスケットをこちらに渡してきてくれた。
中を見ると、沢山のサンドイッチが入っていた。
「へへ、ありがと、おばちゃん!!」
「ああ、たんとお食べ!!」
バスケットを手に取り、食堂から駆け出す。
早くしないと、ドッグが追いついてきちまうからな。
アイツの事だ、俺が行く所と言ったら食堂って直ぐ当たりをつけて来るだろう……
俺は、そのまま駆け足でホワイト・ロックを飛び出し、城下まで走った。
「はぁはぁはぁ!!」
ふぅ、ここまで来れば大丈夫だろう。
足を止めて振り返ると、太陽の光を反射して、眩しく光るホワイト・ロックが見えた。
三層構造からなる白亜の城。
まるで、絵本に出てくるお城。
その威厳のある姿が目の前に聳えている。
俺はそのまま、それに背を向けて歩き出す。
ずっとずっと歩いて、ホワイト・ロックの郊外へと向かう。
色鮮やかな三角屋根の建物や、様々な店が並んでおり、楽しそうに笑う街の人達が通り過ぎて行く。
その人種も様々で、このホワイト・ロックがあらゆる国や地域と関わりを待っている事がわかる。
そんな繁華街を抜けると、人通りが疎らになって行き。最後には人通りがパタリと無くなった。
寂しいものだ……
しばらく歩くと、酷くボロっちい建物が目に入った。
ツギハギだらけの建物に、立て付けの悪そうな窓やドア。ツギハギどころか、ところどころ風穴も空いている。
その余りのボロ臭さに、思わず笑ってしまう。
「ははー、相変わらずボロっちいなー!!」
俺の声が聞こえたのか、立て付けの悪いドアが鈍い音を立てて開く。すると、そこから小さくて可愛らしい子ども達がゾロゾロと現れた。
「わーい、皆、速く速くぅ!! アルルお姉ちゃんが帰って来たぞー!!」
我先にと、赤い髪をした勝ち気そうな女の子がドタドタとした足取りで飛び出して来た。
彼女の名前はアンジェラ。
「わーい、お姉ちゃーん!!」
次に緑色の髪をした、元気そうな女の子が飛び出して来た。この子はアイリス。
「お姉ちゃん、帰ってきたの!?」
三番目に、黒い髪をした、わんぱくそうな男の子が飛び出してきた。この子はアルス。
「お姉ちゃん、おかえりなさい……」
最後に遅れて、大人しそうな金髪の女の子が覚束無い足取りで歩いてきた。
この子はマリー。
皆、可愛い俺の姉弟達だ。
そして、ここは俺の第二の故郷。孤児院“白の家”だ。
「ただいま、皆。今日は特別にサンドイッチ持って来たよ。皆で食べよ!!」




