☆0 悪夢
今でも、あの頃を夢を見る。
酷く生臭いニオイがする裏路地。そこで俺は、ボロボロの貫頭衣の様な物を纏って立っている。
そして、俺はどこに行けばいいのかと、回りをキョロキョロ見渡している。
ふと、通路の先を見ると建物と建物の合間から賑やかな街並が視界に映った。
だけど、何故だかそっちには行ってはいけないような気がした。
だから、俺はその景色に背を向けた。
その先に目を向けると、真っ暗で生臭いニオイが更に強くなったように感じた。
不意に、その暗闇の中から人間の手が姿を現した。
その手は所々に吹き出物があり。土なのか、泥なのか、その正体はわからないが、とても汚れていた。
その手は俺の頬を優しく撫でる。その手は生暖かく、気持ちの悪い湿り気を帯びていて。
それと同時にひときわ生臭いニオイが鼻を襲ってきた。
その時、俺は恐怖とも嗚咽ともつかない物が腹の奥からせりあがって来た。
「アルル…… 起きろ、アルル!!」
どこからか、俺の名前を呼ぶ声がする。
そうだ思い出した。
俺の名前はアルルだ……
そして、これは夢だ……
それも飛びっきりの悪夢だ……
まだ物心ついて間もない過去の出来事。
自分の中に、前世の記憶が存在することを、やっと気づき始めた切っ掛けになった出来事だ。
そして、二度と思い出したくない恐怖の出来事だ。
「アルル!! 起きろ起きるんだ!!」
はっきりと俺の名前を呼ぶ声がする。
俺はその声を頼りに、瞳を開きその悪夢から覚めた。