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9話 額

 ある日。

 なぜか色を失った白黒の世界に、再び僕は居た。居たというより、気付いた時には走っている最中だった。雨の中、いつもの帰り道を、僕の前を天羽さんが鞄をお腹に抱えて走っている。その後ろには、片桐、そのまた後ろに苺谷さんも走って来ていた。全員が、傘を持っていない。

 これは夢だ。あの時と同じ。天羽さんの死の景色が見られる夢だ。


「あ! 信号青だよ!」


 天羽さんが笑って言う。見ると、いつも通る交差点の信号は青で、他に車は来ていない。

 …いつ、何が起きるんだ。気になって、僕は左手薬指の爪を見る。

 30s

 ほっ…、と深く息が出た。まだ30秒ある。辺りの何が襲いかかってもいいように、周囲を見渡す余裕がある。

 たとえ夢でも、僕は天羽さんが死なせるつもりは無い。誰かが決めた運命なんて壊してみせる。

 そう思って、遠くの前方を観察する。

 直後。


───ボォォォン


 何故だか、僕の視界いっぱいに、大きなトラックが一瞬のうちに現れていた。そして、ものすごい早さで右へ通り抜けていく。そのトラックの行方を呆然と目で追うと、天羽さんを見つけられた。交差点の中央で、雨に濡れた地面に伏せて寝転んでいる。


「きゃああああ!」

「天羽っ!」


 苺谷さんと片桐が驚き叫ぶ。駆け寄り、呼び掛けている。


「あ…天羽さん。天羽さん」


 僕の声に、返事は無い。背中を叩いても、びくともしない。

 おかしいだろ。まだ時間はある。今だって爪に…16秒って書いてある。だから、今ここで寝転んでたら16秒後に何かが倒れて来たりして危ない事が……。


「天羽さん、逃げるよ!」


 肩を持つ。ぐったりしていて、余計に重く感じる。

 急げ。まだ生きている。まだ時間は9秒ある。少しでもこの場を離れろ。何が来る。耳をすませ。


「…………何も…来ない」


 ひやり。背筋が凍り付く。

 爪を見る。0。それ以上待っても一切変わらない。天羽さんは、依然としてぐったりと力が抜けている。

 もしやと思い、僕は天羽さんの手首に触れる。脈が、無い。

 0の時に何かが来るのではない。

 0の時に天羽さんの心臓が止まる。

 とんだ勘違いだった。僕はそれ以上考える事が止まり、足元の力が抜け、天羽さんと共に倒れてしまった。



◆◇◆◇◆



「はっ!??」


 目が覚める。瞬時に飛び起きて見渡す。そこは、僕の部屋。色付いている世界。時計の秒針が進む音だけが響く。

 いつもある眠気が微塵も無い。至って元気。ただ、額が痛いのと、左手の爪が痛い。鏡で見ると、額に爪の跡が付いていた。

 どうやら、手を枕にしてうつ伏せで寝て爪が当たっていたらしい。


「…待てよ」


 この寝方、初めて白黒の夢を見た時の、教室で寝てた時もそうだった。手を枕にして指先が痺れていたのは確かに覚えている。


「白黒の夢は、この爪を額に当てて眠ると見れるって事なのか」


 2dと書かれた左手薬指の爪を見ながら、僕は夢を思い返す。


「……」


 鮮明に覚えている。出来るなら思い出したくない。

 でも。大丈夫。いつ何が起こるかを知れたから。あの状況から察するに、急に雨が降るようだ。おそらく当日は誰も傘を持っていかないはず。そうと分かればやる事は一つ。僕が傘を4本持っていって、天羽さんや皆に渡せば、急いで帰る必要が無くなる。トラックに遭遇しないで済む。

 大丈夫。……いや、大丈夫にしてみせる。

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