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8話 4日後

 そうして、いつもの十字路。苺谷さんと片桐はそれぞれの帰路に向かう。僕と天羽さんが2人で帰る時間が少しだけ出来た。


「行こっか」

「う、うん」


 並び歩く。すぐ隣に天羽さんがいる。

 あれを聞かなきゃ。その為に誘ったんだから。


「……あ、天羽さん」

「なぁに?」

「その……4日後、何か、予定、ある?」

「ふぇ? 4日後? 何でその日が気になるの?」


 その日、君が死んでしまうから。なんて言える訳が無い。だから返しを準備しておいた。


「実は、その日のテレビで、ご当地限定のカピバラざえもん特集が──」

「えええええっ!? ホントに? ホントにホントに?」

「う、うん。本当だよ」

「わっはあああ! 観る観る! 絶対観るよ! あ〜楽しみ〜! ありがとうね!」


 そう喜ぶ天羽さんが、僕の至近距離で、真正面で、とびきりの笑顔を見せてくれた。

 ああ。至近距離すぎて目を反らせない。この破壊力に耐えろ、僕の心臓よ!


「……でも、ちょっと我慢」


 ふと、天羽さんは少し上を見て、ぽつり。


「その日は、パン生地を寝かせなきゃだから、テレビはちょっと我慢して、録画して観るね」

「……パン?」

「そ。実はね、私、パン屋さんになる夢があるんだ」

「え? パン屋さん……?」


 その瞬間、僕は以前に食べたあの一口アップルパイを思い出した。


「そ、そっか。どうりで、美味しい訳だ」

「え、何が?」

「ほら、あのアップルパイ。すごい美味しくてさ、パン職人に絶対なれるって思ってさ」

「えへへ……そんなに? 嬉しいなぁ、もう!」

「うん。だから、天羽さんなら絶対なれるよ」


 と。僕が激励をすると、天羽さんは照れ笑いから少し落ち着いた笑顔になった。


「ふふ、ありがとう。そこまで言うなら、石上くんには教えておくね! あのね、本当はね、私、もう既にお客さんに食べてもらってるの!」

「え?」


 お客さんに……もう?


「え? え? ええっ!?」

「びっくりした?」

「びっくりするよ! そ、それ、もう夢を叶えてるじゃん!」

「えへへ、ブイ! っと言いたいんだけど、本当はちょっと違うけどね」

「っ……え?」


 空いた口が塞がらず、理解を求めている、そんな僕の反応から、天羽さんは色々と語ってくれた。

 パン屋さんの夢のために、お父様が家を改造して窯を用意してくれた事。今はまだ、宅配型の小規模な所から始めている事。

 お祖母様が、食品衛生管理者の資格を既に持っていて、安全なパンの作り方を教わってる事と、ちゃんと金銭を頂けている事。

 お客さんが、お祖母様の広い友人関係のご厚意で成り立ってる事。


「という訳なのです! だから週末はたまにお仕事があるのですよ!」


 堂々としたその姿に、僕の想像力が広がる。

 パン屋さんのよく被るハンチング帽と、白いエプロンを着て、手にはミット。熱々のオーブンからアップルパイの置かれた鉄板を出して、僕に笑顔で、こう言う。「召し上がれ〜!」


「食べたい…」

「食べたいの?」

「うん………えっ!?」


 つい、想像力のあまり、ぽろりと出た僕の呟きが、天羽さんに聞かれてしまったようだ。


「ん〜、丁度、試作中のパンの感想が聞きたいから、4日後、それで良かったら食べにおいでよ」

「4日後……食べに……お家に?」

「あ、私の家まで行くの面倒だった?」

「ううん! そんな事ない! 宜しくお願い致します!」

「ふふふふ! お願いされました! …あ、私こっちだから。またね、石上くん!」


 そう手を振って、天羽さんは手を振って家路へ。

 ああ。ああああ。何という事だ。こんなにすぐに想像が現実になるなんて。嬉しすぎて口角がしっちゃかめっちゃかだ。



 そして僕は、心の赴くままにスキップしながら帰宅して、家のドアノブを捻る。

 その時、左手薬指を見る。そこに書いてあるのは、4d。しかし、しばらく見ていると、3dに変わった。携帯電話の時間も見る。17時25分。


「やっぱ、この時間か」


 別に驚きはしない。8dの時から逐一見てるから。約束の日の、丁度この帰る時間に何かがある事は明白。だからこそ僕は、天羽さんの行動パターンを把握する必要があった。

 まぁ、家に招待されたのは嬉しい誤算だ。当日、浮かれすぎないように気を引き締めようと思う。



◆◇◆◇◆



 それから、時は過ぎる。

 授業中に天羽さんと手を振り合ったり。

 左手薬指の爪を見て不意にニヤつく顔を片桐に突っ込まれたり。

 帰り道に苺谷さんのお勧めのクレープ屋に4人で行っていちごミルククレープを食べたり。

 刻一刻と幸せな時が過ぎていく。


 果たして、爪の数字をここまで気分良く見ていた事はあっただろうか。以前なら、天羽さんの命の危機に身構えて、その日が来ないで欲しいとばかり願っていたのに。今は、逆。早く来てほしい。

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