7話 あれれぇ…?
そうして時が経ち、待ちに待った下校時間。
「石上。帰ろうぜ」
「あ、うん。でも、天羽さんも誘っていいかな」
「おっ! おおおおっ!」
「ど、どうした」
「どうしたも何も、変わったなって思えてよ! ついに男らしくなったなって」
「そ、そうかな…。あれだよ、自力でね」
「へっ、ようやくかよ! まぁ、それも石上らしいけどな!」
片桐と拳を合わせ、僕は天羽さんの方へ向かう。女子の友達2人と会話が盛り上がっているようだ。いきなりの難関!
「あ、あの」
「うん?」
視線で、天羽さんは気付いてくれた。
「あ、あのね、い、い……」
言え。僕なら出来る。言え!
「一緒に……帰ろ」
「うん! いいよ!」
え? 即答? はやっ!
「えー!? 石上くんとどんな関係なのー?」
「鈴子ちゃん! そういうのじゃないから!」
「そう? その割にムキになってるよ〜?」
「なってないよ! もう!」
天羽さんと涼風鈴子さんが、キャピキャピと止まらず話している。やっぱり盛り上がってるのを遮って、こんな僕が天羽さんを誘うのなんて迷惑だったんじゃ…。
「鈴子ちゃん、部活に遅れるよ?」
「あ、ホントだ! じゃ、またねー!」
「うん! 頑張ってー!」
身長の小さいもう1人の友人が鈴子さんに耳打ちすると、鈴子さんは教室を去っていった。
そして、天羽さんは鞄を持ってこちらへ。
……その後ろに、身長の小さいもう1人の友人が来ていた。
「石上くん、お待たせ。行こっか」
「う、うん。その……」
「あ、文実ちゃんも帰り道が同じだから、一緒にいいかな?」
「え? ああ、そ、そうなんだ。えっと……いいと思う」
「ありがと! じゃ、行こっか文実ちゃん!」
「うん。石上くん、よろしくね」
「…よ、よろしく」
そうして、苺谷文実さんが、小さく会釈した。
あれれぇ…?
「天羽! 俺も一緒でいいか?」
「勿論!」
「よっしゃ! 皆でワイワイ帰ろうぜ!」
「イエーイ!」
片桐も、来た。
あれれぇ…?
◆◇◆◇◆
そんなこんなで。帰り道。
僕は、3人のクラスメイトと一緒に歩いている。天羽さん、片桐、苺谷さんの3人だ。
さっきの場面で、天羽さんと2人で帰りたい、と主張するような度胸は、まだ無い。かと言って、この3人に楽しく過ごしてもらえるような話術も持ち合わせていない。かっこ悪いな、僕。
「天羽はコミックス派か! 立ち読みしねぇの?」
「しないよ〜。家だと思いっきり笑えるもん」
片桐と天羽さんが前を歩き、テンション高く盛り上がっている。2人とも共通の好きな漫画の話で楽しそうだ。
対するこちらは対称的。僕と苺谷さんは、物静か。苺谷さんは、ぱっと見で眠そうな印象がある。どんなテンションで接したらいいんだろう。
「あの2人、仲良いね」
「そうだね」
「……」
「……」
「……い、苺谷さんの好きな食べ物は?」
「いちごミルク」
飲み物じゃん。なんてツッコミが喉まで出かかったけど、言っていいのか? 趣味嗜好は人それぞれだし。
どうすればいい。初対面に近い苺谷さんに、これ以上どう話題を振ればいいんだ。
「石上くん」
そんな時、苺谷さんが小さく口を開く。
「もしかして、花恵ちゃんと2人で帰りたかった?」
「ええっ?」
「何となく。視線から、そんな感じがした」
これは、まずい。僕が苺谷さんを邪魔者扱いしてると思わせたら、悲しませてしまう。何としても避けないと。
「そ、そんな事、全然無いよ! ぼ、僕はただ、女の子と……視線を合わせるのが、苦手で」
「……そっか。ん、分かった。ごめんね、困らせちゃって」
「ううん、だ……大丈夫」
何とか、やり過ごせたようだ。
「てっきり、石上くんもかなって。花恵ちゃんと仲良くしたい人が多くてね」
「そっか。天羽さん、毎日誰かと楽しそうに話してるもんね」
「ん。毎日。……毎日、ね。石上くんは花恵ちゃんを毎日見てるんだね」
「あっ……」
自分から墓穴を掘った。これは天羽さんが気になると言ってるようなものだ。さっきの誤魔化しもバレてしまう。
ああ、穴があったら入りたい。墓穴でいいから入りたい。
「私は良いと思うよ」
項垂れる僕に、苺谷さんがぽつりと言う。
「石上くんってさ、花恵ちゃんを見てる時に本当に優しい笑顔になるよね」
「えっ!? そ、そうなの?」
「ん。自覚なかったんだ」
「う、うん」
自覚なかったのもあるし、他の人に気付かれて、なおかつ暖かい目で見守られていたなんて。恥ずかしすぎる。
「でもね。花恵ちゃんも、石上くんを見て、よく笑ってるよ」
「え、え、え、えっ!? 本当に?」
「うん。この前、花恵ちゃんが危ない所を助けてあげたでしょ。その時の事を嬉しそうに何回も話してた。その時からだと思うけど、授業中に石上くんがノートをちゃんと書いてるのを見てる時も、花恵ちゃん嬉しそうだったよ」
「……そ、そ、そうなんだね」
天羽さんが、僕の事を話題に出してくれて、僕の気付かないタイミングで僕を見ていたなんて。やばい、すごく嬉しいやら恥ずかしいやらで、ドキドキする。
今の話、聞かれてないだろうか。気になり、ちらりと天羽さんの方を見る。
目が合う。
すぐに僕は、何故か分からないけど、下を向いてしまう。でも、何故か分からないけど、もっと目を合わせていたい。矛盾してる。
「石上くん。前見て」
苺谷さんが、僕に優しく囁いてくれた。
「で、でも」
「でもじゃない」
「心の準備が」
「いらない。早く」
「ちょ、急にどうして…」
「だって───」
次の瞬間。緑色に染まった。
「わぶっ!?」
「木があるから前見てね」
時すでに遅し。僕の顔面を木の若葉が包んだ。
……僕は思った。ながらドキドキしてる時は前を向こう、と。