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花恵さんの寿命が見える  作者: せんたいしょう


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60/61

60話 そして世界は温かい白色で私たちを包む

 景色が変わる。

 ふと気が付くと、どこを見ても、色を失ったような白色と黒色だけの景色。でも、現実と違うのはそれくらい。

 私は今、止まっている車の中。助手席に座っている。隣には、ハンドルを握る、駆馬くん。


「…………っ!?」


 あまりにも自然で、すぐ目の前にいて、私は驚くタイミングがずれてしまった。

 見間違う筈がない。駆馬くんだ。26歳になった駆馬くん。顔付きがキリッと引き締まってて大人な男性の雰囲気になっている。



───ドクン


「ひゃ!?」


 お腹の中で何かが転がった。私の体なのに、勝手に動いた。


「どうしたの?」

「えっ、その、お腹が」

「痛いの?」

「い、痛くない、けど」


 というか、何だこのお腹は。大きい。太ってるような感じじゃなく、張りがあって圧迫感があって……そして動く………まさか……


「ごめん、花恵さん、後にしよう。降りれる?」

「へっ!?」


 急に、だけど優しく落ち着いた声で。駆馬くんはドアを開けて路上に出ると、私の方のドアを開けて、手を差し出してくれた。


「ゆっくりでいいからね」

「あ、う、うん」


 この白黒の世界に来て、分からない事がどんどん増えてばかり。だけど、やっぱり駆馬くんは、夢の世界の存在であろうと関係ない。笑顔で私に寄り添ってくれる。

 私は、ひとまず駆馬くんを信じて、言われた通りに降りる。

 立ってみると、よく分かる。想像以上にお腹が重く、重心が取りづらい。ただ車から降りるだけなのに、油断したら転んでしまいそうだ。

 駆馬くんの手や腕に掴まり、呼吸を整え、ゆっくり時間をかけて、何とか立ち上がる。駆馬くん、鍛えているのかな。体幹がガッシリしていて、全然ふらつく事なく立てた。


「ちょっと歩くよ。頑張って」


 なんて考えて腕を見ていた私は、駆馬くんに手を引かれて、その言葉の意味を遅れて理解した。


「え、歩く? 車はどうするの?」

「いいんだ。さ、行こう」


 そう言って駆馬くんは優しく微笑んで手を引く。信号待ちの車の間を迷いなく進んでいく。足取りの遅い私が転びそうにならない絶妙な速さで。

 そうして歩道にたどり着くと……駆馬くんは私に振り返って。


「ちょっと動かないでね」


 駆馬くんは前からギュッと抱き締めてくれた。抱き締めながら、両手で私の耳を塞いで。


「ちょ、急にどうしたの!?」


 訳の分からない事の連続に慌ててしまうが、駆馬くんは慌てていない。堂々としている。何か意味があるんだなと体で感じると、私の心は穏やかになって───




───ガシァアアアアアア




 激しい衝突音。

 アスファルトの地面が揺れる。

 抱擁を離して見ると、トラックが車の列に突っ込んでいた。その位置は、さっきまで私と駆馬くんが乗っていた車で、くしゃくしゃに潰れている。

 あのまま乗っていたら、私たちも……


「もう大丈夫」


 横から優しい抱擁。頭が撫でられる。震えが和らぐ。


「もう大丈夫。さあ、帰ろう」


 駆馬くんは、こんな状況でも変わらず優しく微笑んで私の手を取り、少し先に止まっているタクシーへと私を誘導した。

 ……もう、何がなんだか分からない事ばかりだけど、今ので改めて分かった。

 私は、将来、あれで死ぬ。ここは、そんな未来が見られる世界なんだ。



◇◆◇◆◇



 タクシーが止まる。たどり着いたのは、レンガが整列して綺麗なエントランスのマンション。エレベーターがあって、今の私でも移動しやすい。

 そうして、駆馬くんが慣れた手付きで鍵を開け、部屋に入る。

 白い壁紙、磨かれたフローリングが綺麗な部屋。物が片付けられていて、足元を気にせず歩けそうだ。


「何か飲む?」


 リビングの椅子に腰掛ける私に、駆馬くんがキッチンに立って言う。


「黒豆茶? それともコーンスープ?」

「じゃあ……コーンスープ」

「おっけー」


 ポットに水を入れたり、食器棚からマグコップを用意したり。そんなテキパキ動く駆馬くんを、私はぼんやりと見て……駆馬くんの左手薬指に指輪が付いているのが見えた。そして、私の左手薬指にも、指輪が付いている。それを見て、その左手をお腹の上にポンと置きながら、ふと言葉が出た。


「私たち、結婚してるんだね」

「え? そうだよ? どうしたの急に」

「あ、いや……何ていうか……檜並さんじゃなかったんだなって」

「檜並さん? ああ、お得意さんにいるね。確か、警察官だよね」

「えっ? 知ってるの?」

「そりゃ知ってるよ。お店に来てたし、あの食べっぷりといいコミュ力といい、記憶に残るよ」


 面識があるようだ。

 そして、どうやら私は未来でもパン屋の経営が出来てて、檜並さんは通って来てくれるようだ。


「だから、またパン屋を再開したら一番に教えて下さいって、道端ですれ違う度に言われてるよ、ははは」


 思い出して駆馬くんは笑う。

 なるほど、未来ではパン屋は休業中。再開する日が未定。その理由は……


「僕たちの子が元気に産まれて、落ち着いたら、ね」


 私のお腹を見つめて。

 私も、同じく見る。

 未来の私のお腹には、私と駆馬くんの子どもがいる。

 駆馬くんは嬉しそうに見つめている。私も、嬉しい気持ちは確かにある。けれど、それより他の気持ちが大きくて素直に喜べない。私は、この子を産む時に───


「……」


 我に返る。返ってしまった。

 指輪と、お腹で元気に動く命と、駆馬くんと過ごせる空間が、あまりにも幸せで心地良くて、ここに来た目的を忘れてしまっていた。

 ここは白黒の世界。夢の中。

 私は、駆馬くんが眠り続けて未来の世界に入り続けている原因を見つけて、解決する為に来たんだ。


「お待たせ。熱いよ」

「……ありがとう」


 駆馬くんがコーンスープ入りのマグカップを2つテーブルに置いて、向かい側に腰掛ける。

 私は飲まずに、駆馬くんを見る。マグカップを冷まそうと息をかけている。


「ねぇ、駆馬くん」

「んー? 何?」

「駆馬くんはどうして、2ヶ月眠ったままなの?」

「……」


 駆馬くんが固まる。飲もうする寸前のマグカップを持ったまま、目が合う。口元はマグカップで見えない。


「花恵さん……今、何歳?」

「22歳」

「そっか。ふふ、同い年だ」


 ゆっくりとマグカップを置いて、小さく笑って……。


「久しぶりだね」


 さっきよりも嬉しそうな目尻で、駆馬くんはにっこり笑った。


「花恵さんもこの世界に来れたんだね。どうやったの?」

「駆馬くんの爪をおでこに当てて眠ったよ」

「へぇ……じゃあ、爪に何て書いてあるか分かった?」

「ううん。沢山の数字がもじゃもじゃ重なってるのが見えただけ」

「それって、これでしょ」


 と言って駆馬くんが見せてくれた左手薬指の爪には、病室でも見た黒いもじゃもじゃがあった。夢の中でも見えるようだ。


「最初はね、ここに数字とアルファベットが綺麗に見えていたんだよ。でも、だんだんと、読めなくなっちゃってね……さっきの質問に答えるよ。実は僕ね───」


 駆馬くんの、目の色に、光が消えた。


「この夢をずっと繰り返し見ているんだ」

「繰り……返し……?」

「うん。それに至った経緯の最初は、花恵さんが22歳の7月10日から檜並さんと付き合い始めるって知ってからなんだ」

「えっ? な、何で知ってるの」

「不思議だろ? 何で眠ってるのに知ってるのかって。それはね、この未来の世界とは別の、花恵さんと檜並さんが結婚する場合の未来にも僕は行けるんだけど、そこで家族アルバムを見て、付き合い始めた記念日に撮った写真に日付が書いてあったんだよ」

「そういう事ね……だけど、待って。別の未来って?」

「ん〜……これ以上は詳しく言えないけど、そうだな……僕はね、他にも死ぬ未来を見れるんだ。全部で10通り。誰と結婚したら何歳で死ぬのか、全部分かるよ」


 駆馬くんが、話の内容とは真逆に、変わらずにっこり笑っている。一切の動揺も無い。


「そういう事で、日付は知ってるんだ」

「……確かに、その日はプールに行ったよ。結婚を前提に告白をされた。でも、待ってて下さいって伝えてあるの」

「へぇ。それはどうして?」

「駆馬くんが……忘れられなくて。幸せになる為に別れたのに、私だけ幸せになるのは違うなって……駆馬くんは幸せなのか気になって……」

「……ふふっ、やっぱり優しいね」


 駆馬くんがスープを一口すする。


「でも、いずれ付き合う。もう分かるから」

「何で? さっき言ったじゃん。10通りあるって。未来は、こうして駆馬くんと結婚してるんじゃ……」

「あー、言うのが遅くてゴメンね。今ここにある世界は、もしも、僕と結婚したらの未来で、必ずこうなる訳じゃない。花恵さんの選び方で変わる」


 でもね。

 と、駆馬くんは続ける。


「必ず、檜並さんは花恵さんを一生涯かけて大切にする。間違いなく。だから、花恵さんは幸せになれる。花恵さんが幸せになってくれれば、僕も幸せに……ってさ、思ってはいるんだけどね」


 わずかに口角が下がる。


「いざ、付き合うその日が近くなって、思っちゃったんだ。嫌だなって……どこで間違えたんだろ……何で僕はこんな遠くにいるんだろうってさ」

「駆馬くん……」

「ううん。もう大丈夫。すぐ近くに、花恵さんはいたから。この夢の世界で、いつでも会えたから」


 駆馬くんが、左手薬指の爪を大事そうに擦る。


「この世界でなら、僕らは結婚しているし、誰にも邪魔されない。お腹の子が成長するのを一緒に喜べる。産まれるまでの一日一日を大切に過ごして、1ヶ月後に産まれるその日に花恵さんが死ぬ前に、もう一度爪を当てる。すると、さっきのトラックの場面まで戻る。それを繰り返してるんだよ。現実世界では2ヶ月だけど、こっちは時間の流れが少し早いのかな。何回目だろ……」


 どうして起きないのか、謎が解けた。

 駆馬くんは、自分から夢が覚めない事を望んで、繰り返して、今に至るんだ。


「んー、ダメ。やっぱ頭悪いから、30から先は覚えてない」

「そんなにも……」

「んーん。数は気にしなくていいよ。……あ、そうだ、花恵さん、提案があるんだけど」


 白黒の世界だからだろうか。駆馬くんが、真っ暗な瞳で、私に微笑む。


「これからずっと、この世界で、僕の傍にいてほしいな。数を忘れるくらい、何度も繰り返してさ」


 右手を、差し出される。

 握ろうと思えば握れる距離。

 別れた時から待ち焦がれていた、駆馬くんの手を取れる瞬間。

 私は、その右手を……私を守ってくれた時の手の甲の傷跡も包むように、両手で握る。

 そして、考える。

 ただ純粋に私を好きでいてくれて、気持ちを押し殺す事に限界を超えてしまった、このボロボロな駆馬くんを、これ以上傷付けない方法は………




「出来ない」


 駆馬くんが、笑顔のまま、だけど目の笑みは消えた。


「理由を聞いていいかな」

「ここにいても、幸せになれないから」

「そんな事ない。幸せだよ」

「じゃあ、何で、この子が大きくなるのを喜んでくれてるの?」

「……」

「さっき外でも私を支えてくれたし。温かいコーンスープを全部一人で準備してくれた。私の為でもあるけど、この子も大切だからじゃないの?」

「……」

「ねぇ、駆馬くん。ついさっきまで繰り返して、26歳の私と一緒にいたんだよね。お腹を蹴るくらい大きいなら性別も分かる。じゃあ話してるはずだよね、この子の名前。もう決めてあるの?」

「っ…………そ…れは……」

「候補は、考えてくれてる?」

「……うん」

「そっか。それだけ聞ければ充分だよ。ありがとうね」


 喉が渇いた気がして、私はコーンスープをすする。すっかりぬるくなっていた。


「名前の候補、生まれた後に顔を見てから決めたい、でしょ?」

「……うん。全く、その通り。よく分かったね」

「だって、私も同じだもん。付けてあげたい名前の候補って絞りきれないよね。私もそうなっちゃうと思う。でも、そうやって名前を考えてさ……良い子に育ってほしいって想いを込めて……見届けて………でも、そんな未来を想像しても、この子の隣に私は居ない。そんな未来、駆馬くんだって想像したくない! 名前も決められない! そういう幸せを諦めるのって……ダメだよ。ここにいても不幸なままだよ」


───ガタッ


「分かってる!!」


 駆馬くんが、椅子から立ち上がった。


「分かっているんだ。叶わない願いだって分かってる、けど、やっぱり、ずっと、ずっと一緒に居たい……だけど、どうしようもないんだよぉ……」


 駆馬くんが、拳を握りしめる。今まで抑えてきた心の声が、私に突き刺さる。

 悲しくて、痛いけど、嬉しい。

 付き合っていた頃のまま、駆馬くんも変わっていなかった。

 私は、想いのままに立ち上がる。重くてふらつくけど、歩みは止まらない。


「私も、駆馬くんがいい。もう離れたくない」


 近くて遠いその距離を、抱き締めてゼロにする。

 私は、まっすぐに気持ちに素直になって、告げる事が出来た。

 私も、変わってなかった。他の人を好きになるなんて出来ない。檜並さんに次に会った時、謝らないと。檜並さんは何も悪くない。すごく素敵な人。悪いのは私。……でも、そうと分かっていても、駆馬くんと居たい。


「花恵さん」


 駆馬くんも、抱き締め返してくれた。

 ふつふつと、苛立つ。どうして、こんなにもお互いに好きでいるのに、結婚しちゃいけないんだろう。子どもを産めば死ぬなんて……

 ……。

 ふと、疑問が浮かんだ。


「ねぇ。私、出産で死ぬのに、何でさっきトラックが来たの?」

「ああ、実はね、死ぬ未来を花恵さんに教えると、死ぬ未来が増えるんだ。しかも早く死ぬし、悪い方向で」


 だから、出産で死ぬ未来もありつつ、出産前にもトラックが来たんだ。その未来を、今、見ているんだ。


「え……でも、待って。そのトラックも、私この目で見ちゃったよ。今、爪を当ててみたら、きっと、トラックで死ぬ未来とは別の、また違う未来に……」

「えっ……あ」


 私が知れば違う未来になる。その理屈なら、もう既に条件は満たしている。未来は、また悪い方向で変わっている。


「ああ……ああああ……もう、ダメだ! 花恵さん! 今すぐこの夢から出てって! これ以上見たらもっと不幸になる!」


 不幸……

 私だけ夢から出て、また離れ離れになる事が、本当に幸せになる……? いいや、そんな訳無い。今ここで現実世界に戻っても、私も駆馬くんも、幸せじゃない。

 だけど。

 未来を幸せにする為に、私に何が出来るのだろう。まだ何一つ思いついてない。ただただ、無力感と、悔しさが膨らむ。やっぱり、未来を変える為には、駆馬くんみたいにならないと。駆馬くんは、どんなに危ない状況でも、自分も巻き込まれる怖さを乗り越えた。話し掛けるのが苦手だったのに、自分には出来ないという価値観を壊して声を掛けてくれた。パン屋の配達も、就職先も、自分の時間を削って………私の為に……自分の人生を変えて尽くして……


「……」


 今、分かった。私が成すべき事が。


───ドクン


 ……お腹の中を蹴られる。

 そうだね、頑張って生まれてこようとしてるあなたに会う為にも……ママは頑張るから。


「ねぇ、駆馬くん。爪をおでこに当てて。景色を変えよう。また違う未来を、私にも見せて」

「ダメだって。そんな事出来ない。でも、どうして……?

「全ての、死の未来を、見る為だよ」


 駆馬くんが、ぽかんと口を開けて固まった。


「全て……!?」

「うん。私、思ったんだ。今まで駆馬くんが守ってくれたように、人生の選び方を変えれば死なない。出産で死ぬ未来も、それで変えられる。だってさ、駆馬くんじゃない人と結婚して出産するなら死なないなんてさ、おかしいもん。私の体に何か良くない所があったら、結局同じだし。死ぬ未来に繋がる何かってのが必ずあるよ」

「た……確かに、他の人だったら死なずに出産できるって、何かあると思う。でも、どうにか出来るとは……」

「出来る。今はそれを知らないだけ。知ればいい。何度も変えよう。全て見る頃には見つかるはずだよ……おばあちゃんになって天寿を全うする未来が」

「……でも、それじゃあ、まるで寿命が伸びるような……見れば見るほど早く死ぬんだよ?」

「早くなるとしても、必ず打ち止めが来るはず。そうなったら、今度は遅く死ぬ未来が見えてくる。そこまで含めて全部見るんだよ」

「……はず、なんだね」

「うん。確証は無いよ」

「花恵さん……何で、そんな危ない橋を渡るの」

「未来を良くする為だよ。2人で、結婚できて、子どもにも恵まれて、皆で長生き出来るように。やるだけやってみよ! 頑張るよ、私、暗記は得意だから!」


 強く、言いきる。返事を聞かせてほしいというメッセージを込めて、私は駆馬くんの目を見つめた。


「言いたい事は、分かった。上手くいけば長生き出来るかもしれない。でも、変えられないかもしれないよ。それどころか、死ぬ危険でいっぱいの酷い人生になるかもしれないんだよ!?

「そうだね。やるだけやってみて、今よりもっと酷くて、不幸で、早く死ぬ未来になるかもしれない」

「だったら───」

「でも! それでも、いいの!」


 大きく吸って、言った。


「もしも早く死ぬ未来になるとしても、限られた時間を一緒に過ごしたい。私が幸せでいられるように尽くしてくれたように、私も、私の人生を捧げたい……です」


 死ぬ怖さを、それ以上の好きで払い除けるように。ほんの少しの言葉なのに、息が上がった。体が熱い。目の前がくらくらして───


「危ない!」


 駆馬くんの声が、近くだけど、遠いような感覚。まるで海の底に沈むように、ぼんやりする。

 立ちくらみだ。後ろに倒れてしまった。ただでさえお腹の赤ちゃんに血液を送っていて、お腹が重くて立ってるのもやっとなのに、長く話していたからだ。

 でも、大丈夫。駆馬くんが一瞬で距離を詰めてお姫様抱っこで助けてくれたから。


「大丈夫?」

「うん。ありがとう」

「良かった……本当に」


 ゆっくりと床に降ろしてくれると……駆馬くんが私の頭を撫で、ぎゅっと抱いて包み込んでくれた。


「花恵さん。僕なんかで、いいの?」

「うん」

「大事な命も、未来も、僕のために……」

「駆馬くんだから、だよ。駆馬くんだって、私の為に命懸けで守ってくれたんだよ?」


 そう言って私は、駆馬くんの右頬に手を当て撫でる。


「結婚ってさ、病める時も健やかなる時も支え合う……じゃん? 駆馬くんばかり支えるんじゃなくてさ、私にも支えさせて」


 伝えたい事は、もう、本当に本当に言い切った。心の中が、心地良く空っぽになった。私は、ふぅっと呼吸を整え、目を合わせ、駆馬くんの答えを待つ。

 駆馬くんは、目をゆっくり閉じ、開ける。その瞳は潤んでいて、光が灯っているようで。そして、しがらみが解きほぐれるようにふんわりと笑い、私を優しくぎゅっと抱きしめてくれた。


「花恵さん。未来……変えるよ」

「うん。変えよう。ずっと一緒だよ」

「うん!」


 そして世界は温かい白色で私たちを包む。

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